「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」
これは、明治二十八(一八九五)年に正岡子規が奈良で作った有名な俳句である。「柿を食べていると、法隆寺の鐘がなった。」という意味だが、これだけの言葉で、夕方ののどかな情景がイメージできてしまうから不思議だ。彼らしく自然の象徴物である「柿」がちゃんと引用されている。本人の随筆『くだもの』の中で説明されているが、かつての古典和歌集では「柿」が扱われることがなく、ましてや「柿」と「奈良(法隆寺)」がセットになることもなかったようである。子規は柿が好物のようで、彼が俳句を研究する上で考案した俳句分類法の中でも、親友の夏目漱石を「漱石君=柿」と繋げているところが面白い。よほど仲が良かったのであろう。これだけで判断できる。
「糸瓜咲いて痰のつまりし仏かな」
これも自然界の象徴である「糸瓜」が句の中で生きている。子規が咳に苦しんでいる様子も伺える。自分のことを「仏」と言っているところは、自分の死が自然と迫ってきていることをうまく表現している。「なんともない自然の情景の横に、死にそうな自分がここにいるよ。」と言っているかのようである。これを“すがすがしい気持ちで死を客観視...