【再】国文法①

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    資料紹介

    資料の原本内容

    一 入子型の文構造について
    近代言語学が欧米から導入されると、日本では明治以降になって日本語の文法について組織化が考案されるようになった。様々な人物が文法論を組み立てたが、中でも時枝誠記は、入子型構造の有効性を説いている。
    時枝文法は、文節相互の関係だけで意味関係を捉えるのが不可能な部分を、「詞」と「辞」の組み合わせで日本語の文の構造を形作っている。
    ***** 図式 ***** (詞・辞)
    右の図より、「詞」が引き出しとするなら、「辞」が取っての役割を果たす。「梅の花が咲いた。」の文で振り分けると、次のようになる。
    ***** 図式 *****
     また、文節の考え方ではうまく説明できない並列関係や準体助詞も、次のように図示できる。
    ***** 図式 ***** (ユリとアヤメを植えよう)
    ***** 図式 ***** (私が書く■のは手紙です。)
    時枝文法では(■)の部分を「零記号の辞」と呼び、形式上に表示されていない主体的立場の表現が、辞の位置に備わっているものと見なしている。文末が動詞で終わる場合も同様で、過去や推量を示す表現は次のようにできる。
    ***** 図式 ***** (雨が降る■)
    ***** 図式 ***** (雨が降った)
    ***** 図式 ***** (雨が降るだろう)
    さらに、連用修飾を入子型で示すと次のようになる。
    ***** 図式 ***** (花子が一番美しい)
    ***** 図式 ***** (花子がユリを植える)
    このように、日本語の文の構造は述語が中心であることは分かるが、個々の格成分が述語にどのように関係してくるかを示すのは困難である。また、動詞の後に助動詞や終助詞が複数陳列されると、各成分の意味的関係の区別がつきにくい。格助詞の前後に副助詞や係助詞が付いた場合も同様である。
    ***** 図式 ***** (太郎が花子に手紙を届けたらしいですよね。)
     右の図のように文が複雑になると、入子型構造では図示できない弱点があり、「零記号の辞」についても異論があるが、文節論だけでは説明しきれない部分の意味的構造を把握するには重要な手段なのである。
     二 格の働きについて
     名詞の述語的役割を持つ動詞・形容詞・形容動詞などが、どのような意味関係にあるかを示す文法形式を「格」と言い、日本語では主に格助詞によって成り立っている。格助詞には一般に、「が・を・に・で・から・より・へ・と」などが存在し、それぞれ動作・現象・存在などの主体、動作を向ける対象・相手・手段・現象・存在の場所や時間等さまざまな役割を持っている。
    例えば、「川に魚がいる。」の文では、「いる」の動詞が「に格」によって物体の存在を表している。しかし、「人々が川で泳ぐ。」では「で格」が同じく場所を表しているが、「泳ぐ」という動作の場合は「に」を使用しない。
    「が格」は、一般的に存在や動作・現象の主体を表すことが多いが、「水が欲しい」「私は映画が好きだ」のように、形容詞や形容動詞の対象を表す場合もある。
    「を格」は、動作の方向や与えられた対象を主な意味役割とするが、「ご飯を炊く」のように逆に作り出す対象を表す場合もある。さらに、場所に関連すると「人々が川を渡る」の「渡る」という動詞で起点を表し、通過する場所を示す。
    「に格」は対象となる相手を表したり、存在や帰着点を表す場所に関連することが多いが、「大人になる」のような結果の状態や出所を表すもの、「物音に驚く」のような変化の原因・きっかけを表すものもある。
    「から格」は場所や時間的起点を表すが、物の授受の出所となる人を表したり、動作・物事の順番を表す場合もある。また、「ぶどうからワインを作る」のように、製品の原料を表す場合もある。さらに、「先生からおっしゃって下さい。」のように動作の主体でありながら、「が格」でもなく順番の意味でもないものもある。
    「と格」は相手を表す場合が多いが、二人で動作が行われる場合や「に」に置き換えても意味に大差ない場合、「~と一緒に」に言い換えられる場合の相手に分けることができる。また、「~と言う/思う」等では、言語活動・思考などの内容を表す。
    このように、一つの格助詞が持つ役割は複数存在し、固定化されていない。その理由は、名詞と述語の関係や文全体を把握することによって、限られた個々の格助詞に意味役割が発生するからである。

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