『サテュリコン』は、時のローマ皇帝ネロの側近であるペトロニウスによって書かれた風刺小説である。彼はネロにとって、いわば背徳の指南役であった。当然、古代風刺小説の金字塔と名高いこの作品も、内容を紐解けば赤裸々な記述が多く、「インモラルな悪漢小説(ピカレスク・ロマン)」と評されることしばしばであった。
しかし見方を変えてみれば、虚構の物語ではあってもその中で当時の風俗がありありと描かれており、一次資料としての価値を十分に有している。今日なお古代ローマ人の姿を垣間見ることができる、という点で、この作品はやはり金字塔に他ならないのだ。
さて、それでは作品に目を向けてみよう。
『サテュリコン』を大まかにかいつまめば、恋多き放浪学生エンコルピウスが様々な人物と関わりながら(多くは痴情の縺れなのだが)南イタリアの諸都市を巡る、という筋書きになっている。ここで出会う人物として特に注目すべきはトルマルキオという解放奴隷だ。
「トリマルキオの饗宴」の段において、エンコルピウスは修辞学校教師の案内でトルマルキオの饗宴に参加する。トルマルキオはもとは奴隷であるが、主人の死とともに財産を相続し、その資金を元に一代で莫大な富を築くに至った。
『サテュリコン』に描かれた解放奴隷たち
『サテュリコン』は、時のローマ皇帝ネロの側近であるペトロニウスによって書かれた風刺小説である。彼はネロにとって、いわば背徳の指南役であった。当然、古代風刺小説の金字塔と名高いこの作品も、内容を紐解けば赤裸々な記述が多く、「インモラルな悪漢小説(ピカレスク・ロマン)」と評されることしばしばであった。
しかし見方を変えてみれば、虚構の物語ではあってもその中で当時の風俗がありありと描かれており、一次資料としての価値を十分に有している。今日なお古代ローマ人の姿を垣間見ることができる、という点で、この作品はやはり金字塔に他ならないのだ。
さて、それでは作品に目を向...