現在遺伝子治療は非常に注目を集めているとともに、倫理的問題に直面している。なかでも私が取り上げようと思うのはES細胞についてである。ES細胞とはEmbryonic Stems Cellsの略で、正式には「胚性幹細胞」と呼ばれている。受精後間もない胚などから取り出され、血液や脳、骨などあらゆる臓器や器官に分化出来ることから別名「万能細胞」とも呼ばれ、糖尿病やアルツハイマー病、パーキンソン病など、さまざまな疾病の治療に役立つとの期待が大きい。しかし、採取源として体外受精などであまった胚や、中絶された胚をバラバラに分解して使われるため、多くの批判があがっている。
ヒトES細胞は細胞研究や細胞分化を決定する遺伝子研究にとってこの上ない材料である。現在、ほぼ完了しているヒトゲノム解読後の機能解析作業にこの未分化のヒトES細胞の使用は効率が良く有効である。そればかりか医療分野以外でも化粧品、食品メーカーなどでも実験試料として多くのニーズがある。今日、廃棄された人体組織はさまざまな分野で薬剤の効能や副作用試験などの試験試料や研究材料として大量に用いられている。その多くは中絶胎児のもので、現在これをビジネスとする企業は少ないが、年間3兆円を超える市場に成長しているとも言われている。日本でも同様に中絶胎児や手術、検査で摘出した人体組織は、原則では提供者の同意を得て冷凍保存し、実費でこれらの試料や研究に提供されてきた。
ところが実際は、平成12年五月に厚生省の国立精神・神経センター研究所が、行政解剖された小児の脳の一部を遺族に無断で研究に使っていたことが判明したように、今日までこうした人体組織は暗黙のうちに大量にヤミ取引されてきた。
これらの現状は今日の生命科学の進展が、充分な規制もないまま、監視者のいない密室で研究が猛スピードで進行しているといった状態で、規制すべき生命倫理の確立は後手に回り、これに追いついていない。
遺伝子の希望と危険性
現在遺伝子治療は非常に注目を集めているとともに、倫理的問題に直面している。なかでも私が取り上げようと思うのはES細胞についてである。ES細胞とはEmbryonic Stems Cellsの略で、正式には「胚性幹細胞」と呼ばれている。受精後間もない胚などから取り出され、血液や脳、骨などあらゆる臓器や器官に分化出来ることから別名「万能細胞」とも呼ばれ、糖尿病やアルツハイマー病、パーキンソン病など、さまざまな疾病の治療に役立つとの期待が大きい。しかし、採取源として体外受精などであまった胚や、中絶された胚をバラバラに分解して使われるため、多くの批判があがっている。
ヒトES細胞は細胞研究や細胞分化を決定する遺伝子研究にとってこの上ない材料である。現在、ほぼ完了しているヒトゲノム解読後の機能解析作業にこの未分化のヒトES細胞の使用は効率が良く有効である。そればかりか医療分野以外でも化粧品、食品メーカーなどでも実験試料として多くのニーズがある。今日、廃棄された人体組織はさまざまな分野で薬剤の効能や副作用試験などの試験試料や研究材料として大量に用いられている。その多くは中絶...