序 論
要求水準(自己のなしうる課題の程度についての期待や願望の水準)には個人差がある。Hoppe(1930)の「成功と失敗」の研究は、難易度がさまざまな遊戯や作業などの課題を繰り返し被験者に行ってもらい、そのつど、要求水準の成立、その変化の過程を考察した。
その結果、成功、失敗の体験は、課題の作業の結果から客観的に割り出されるのではなく、その個人の要求水準に関係することが判った。課題の結果が個人の要求水準に達すれば成功、それ以下だと失敗感が生じる。また、その課題に成功すると、自我水準(他者と比べ、自己の能力の自己評価)が高まり、喜び、満足感が生まれ、失敗すると、自尊心が傷つき、悲哀、不満といった感情が生じる、といったことが実験結果から明らかになった(早坂、1981)。
人は一般的に自我水準を高く保ちたいとする傾向があり、そのため要求水準をなるべく高く設定して、それに成功したいと考える。また、一方では自我水準を低下させるのを恐れ、要求水準を比較的安全な低めのところに設定しようとする力が働き、心に葛藤をもたらす。
よって要求水準は、通常小刻みに上下し、バランスをとりながら課題を行うことになる。このバランスは、比較的狭い困難度の間にあって、その個人にとって課題が非常に困難か、非常に簡単なところに位置していると、バランスが崩れてしまい、成功・失敗体験が生まれない。また成功・失敗体験に伴う要求水準の目表変更の仕方、自我水準のバランスのとり方には個人差が見られる(末長、1963・早坂、1981)。
今回の実験ではHoppe(1930)の研究のように、被験者に、単純加算作業(クレペリン作業)という達成課題を用いて、個人の一連の目標設定行動から、要求水準の設定にみられる個人差を見出すものである。
序 論
要求水準(自己のなしうる課題の程度についての期待や願望の水準)には個人差がある。Hoppe(1930)の「成功と失敗」の研究は、難易度がさまざまな遊戯や作業などの課題を繰り返し被験者に行ってもらい、そのつど、要求水準の成立、その変化の過程を考察した。
その結果、成功、失敗の体験は、課題の作業の結果から客観的に割り出されるのではなく、その個人の要求水準に関係することが判った。課題の結果が個人の要求水準に達すれば成功、それ以下だと失敗感が生じる。また、その課題に成功すると、自我水準(他者と比べ、自己の能力の自己評価)が高まり、喜び、満足感が生まれ、失敗すると、自尊心が傷つき、悲哀、不満といった感情が生じる、といったことが実験結果から明らかになった(早坂、1981)。
人は一般的に自我水準を高く保ちたいとする傾向があり、そのため要求水準をなるべく高く設定して、それに成功したいと考える。また、一方では自我水準を低下させるのを恐れ、要求水準を比較的安全な低めのところに設定しようとする力が働き、心に葛藤をもたらす。
よって要求水準は、通常小刻みに上下し、バランスをとりながら課題を行うこと...