4-3水星の近日点移動

閲覧数3,852
ダウンロード数22
履歴確認

    • ページ数 : 10ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    水星の近日点移動
    相対論が一つの謎を完全に解いてしまった話
    水星の謎
     惑星というのは太陽を焦点の一つとした楕円軌道上を運行しているものだが、どれも普通の円と区別が付かない程度にしかひしゃげていない。 水星は他より飛び抜けて離心率が大きい軌道を持つが、それでも長径と短径の比が 0.97 くらいであるから、やはり見た目は普通の円とほとんど変わらない。
     離心率というのは、焦点位置が長軸半径の何割ほど中心から外れた所にあるかを示す数値である。 水星の離心率は 0.2 くらいであるから、水星軌道の焦点の位置は円の中心から目立って離れたところにあることになる。 図に描けば今話した事が一目で印象付けられるだろう。
     太陽をちょっと大きく描きすぎたかも知れない。 太陽の直径は水星軌道の直径の 1/83 程度であるから、直径 8 センチの円軌道を描いたときにやっと直径 1 ミリの粒に見えるくらいが本当だ。
     その楕円の長軸の方向は常に一定なのではなく、長い期間の間に徐々にずれてゆく。 太陽に最も近くなる位置を「近日点」と呼ぶのだが、それが移動すると表現しても良い。 太陽から最も遠くなる点「遠日点」が移動すると考えても同じ事だが、なぜか「近日点移動」と呼ばれるのが普通である。 分かり易く大袈裟に図に描くと、次のように綺麗な花模様が描かれて行くようなイメージである。
     実際はこんなに目で見て分かる程度の動きではなく、ほとんど変化が無いと言っていいくらいだ。 どれくらいのずれがあるかと言うと、水星の場合、100 年で僅か 574 秒なのである。 ここでの秒とは時間の単位ではなくて、角度の単位である。 1 度の 1/60 が 1 分で、そのさらに 1/60 が 1 秒である。 つまり 1 秒というのは 1/3600 度。 100 年で 0.16°くらいのズレしか起こらないということになる。 それでも、そのような微妙な動きがあることが長年の観測によって明らかになっているのだから大したものだ。
     そのズレの原因の大部分が、他の惑星からの重力の影響であるとしてニュートン力学の計算で説明できる。 それもまた大したものである。 ところが 574 秒の内の 43 秒だけがどうしても説明できないまま、 19 世紀半ばから何十年もの間、ずっと謎として残っていたのだった。
     今回はその 43 秒を相対論が見事に説明してのけた、という話である。 この 43 秒という値には ±0.5 秒程度の誤差が含まれると見積もられているが、相対論の計算はその範囲内にしっかりと収まったのである。 つまり今のところ、水星の近日点移動の謎は、もう謎ではなくなっているわけだ。
     もし相対論のぼろを見付けたいならもっと精度を上げて確認しなければならないだろうが、そんな簡単に出来る話ではない。 ニュートン力学による影響を算出するのに使った他の惑星の数値の妥当性も検証しなくてはならないし、影響を与えるものが本当に他にもないのか、あらゆる可能性を検討しなければならない。 最近では銀河内での太陽系の運動が与える影響まで調べられているようだ。 水星の運動の観測精度だけを上げさえすれば済むわけではない。
    計算の方針
     どのように考えて計算するのが最も分かり易くて楽だろうか。
     水星は 88 日で太陽の周りを一周するのだから、100 年で約 415 回転してきたことになる。 つまり一周するごとに約 0.104 秒ずつのずれが生じる事を示せればいいわけだ。
     さて、ニュートン力学では惑星の軌道は次の式に従うこ

    タグ

    資料の原本内容

    水星の近日点移動
    相対論が一つの謎を完全に解いてしまった話
    水星の謎
     惑星というのは太陽を焦点の一つとした楕円軌道上を運行しているものだが、どれも普通の円と区別が付かない程度にしかひしゃげていない。 水星は他より飛び抜けて離心率が大きい軌道を持つが、それでも長径と短径の比が 0.97 くらいであるから、やはり見た目は普通の円とほとんど変わらない。
     離心率というのは、焦点位置が長軸半径の何割ほど中心から外れた所にあるかを示す数値である。 水星の離心率は 0.2 くらいであるから、水星軌道の焦点の位置は円の中心から目立って離れたところにあることになる。 図に描けば今話した事が一目で印象付けられるだろう。
     太陽をちょっと大きく描きすぎたかも知れない。 太陽の直径は水星軌道の直径の 1/83 程度であるから、直径 8 センチの円軌道を描いたときにやっと直径 1 ミリの粒に見えるくらいが本当だ。
     その楕円の長軸の方向は常に一定なのではなく、長い期間の間に徐々にずれてゆく。 太陽に最も近くなる位置を「近日点」と呼ぶのだが、それが移動すると表現しても良い。 太陽から最も遠くなる点「遠日点」が移動すると考えても同じ事だが、なぜか「近日点移動」と呼ばれるのが普通である。 分かり易く大袈裟に図に描くと、次のように綺麗な花模様が描かれて行くようなイメージである。
     実際はこんなに目で見て分かる程度の動きではなく、ほとんど変化が無いと言っていいくらいだ。 どれくらいのずれがあるかと言うと、水星の場合、100 年で僅か 574 秒なのである。 ここでの秒とは時間の単位ではなくて、角度の単位である。 1 度の 1/60 が 1 分で、そのさらに 1/60 が 1 秒である。 つまり 1 秒というのは 1/3600 度。 100 年で 0.16°くらいのズレしか起こらないということになる。 それでも、そのような微妙な動きがあることが長年の観測によって明らかになっているのだから大したものだ。
     そのズレの原因の大部分が、他の惑星からの重力の影響であるとしてニュートン力学の計算で説明できる。 それもまた大したものである。 ところが 574 秒の内の 43 秒だけがどうしても説明できないまま、 19 世紀半ばから何十年もの間、ずっと謎として残っていたのだった。
     今回はその 43 秒を相対論が見事に説明してのけた、という話である。 この 43 秒という値には ±0.5 秒程度の誤差が含まれると見積もられているが、相対論の計算はその範囲内にしっかりと収まったのである。 つまり今のところ、水星の近日点移動の謎は、もう謎ではなくなっているわけだ。
     もし相対論のぼろを見付けたいならもっと精度を上げて確認しなければならないだろうが、そんな簡単に出来る話ではない。 ニュートン力学による影響を算出するのに使った他の惑星の数値の妥当性も検証しなくてはならないし、影響を与えるものが本当に他にもないのか、あらゆる可能性を検討しなければならない。 最近では銀河内での太陽系の運動が与える影響まで調べられているようだ。 水星の運動の観測精度だけを上げさえすれば済むわけではない。
    計算の方針
     どのように考えて計算するのが最も分かり易くて楽だろうか。
     水星は 88 日で太陽の周りを一周するのだから、100 年で約 415 回転してきたことになる。 つまり一周するごとに約 0.104 秒ずつのずれが生じる事を示せればいいわけだ。
     さて、ニュートン力学では惑星の軌道は次の式に従うことが分かっている。
     u は太陽から水星までの距離 r の逆数で、 は太陽を中心とした x 軸からの角度を表している。 e は離心率である。 要するにこれは楕円の式であり、この式に従う限り近日点移動は起きず、水星は永遠に同じ軌道を回り続けるのである。
     前回は測地線の方程式を u ( ) についての微分方程式の形にまで変形して行ったが、同じような方程式を導いてやれば上の式を当てはめて比較してやることが出来るだろう。 ただし、今回求めようとしているのは光の軌跡ではないのだから、途中で光速の条件を入れることはしないで変形を続ける必要がある。
     そうやって導かれた方程式に上の式をそのまま代入してやっても、きっと条件を満たさない。 本当にごく僅かだが、上に書いた式から微妙にずれているはずなのだ。 それがどれくらいずれていればその導かれた微分方程式に合うのかを調べてやればいいことになる。
     方針としては以上だが、後で具体的な数値を入れるときのために、今の内に少しだけ補足しておこう。 上の式には l という記号が使われているが、これは両辺ともちゃんと「長さの逆数」になってますよ、というのを分かり易く示すために使ったに過ぎない。 この式で表される楕円について、長軸の長さ L を求めてやると、
    となる。 理科年表などにはこの長さの半分の値である L/2 が惑星の「軌道長半径」として記載されていることが多いのである。
    測地線の方程式
     では、測地線の方程式を u ( ) の方程式で表す作業に取り掛かろう。 前回「光の湾曲」の記事中でやった計算と途中までは同じである。 θ = π/2 とするのも同じで、水星の公転軌道は x y 平面上にあると考えて計算を楽にする。 前回と違うのは、光速の条件を入れないようにする点だけである。
     とは言うものの、前回は光速の条件によって式がかなり省かれたお陰で、あのすっきりした式にたどり着けたのだった。 今回、それが無いのはかなり厳しい。 何の工夫もなく変形を続けても係数がごちゃごちゃしてしまってまとまらないのである。 先を説明する気が失せてしまうほどだ。
     教科書を解読するのに手間取ったが、どうやらそれを回避する良い方法があるようだ。 前回の途中の次の式からスタートしよう。
     前回はこの式の第 2 項目が、光速の条件 ds² = 0 を当てはめることですっきりと書き換えられたのであった。 それに倣って似た事をやってみよう。 今回は ds² = 0 ではないが、ds と固有時 τ の間には、 - ds² = dτ² という関係があるのだったから、次のような式が成り立っている。
     ただし、θ は定数で、θ = π/2、dθ = 0 であることを代入済みである。 この両辺を dτ² で割ってやれば、
    となるだろう。 さあ、やろうとしている事に気付いただろうか。 これまで何となく媒介変数として σ を使ってきたが、ここで σ と τ とを同一視してやるわけだ。 そんなことをしても、もちろん良いのである。 σ というのは測地線のコース上に目盛りを刻むものに過ぎないので、固有時の概念はその代わりとして十分に使える。
     前回は光を扱っていたので、敢えてやらなかっただけなのだ。 光については固有時の経過は常に 0 であると考えられるために、媒介変数に固有時という物理的解釈を与えることが出来なかった。
     以上のことから、
    という条件式が出来上がる。 これが (2) 式の第 2 項にピッタリ収まり、前回と似た変形を経て次の式が得られることになる。
     今回もすっきりしてなかなかいい形をしている。 これが光に限らないで、普通の物体にも成り立つ測地線の方程式である。 時空が曲がっているので、測地線の中には太陽の周りを回り続ける軌跡を描くものもあるというわけだろう。
     ところでこの式に含まれる定数 h は一体何を意味するのだろうか。 もしこの定数が今後の計算結果に最後まで残るような場合には、これに何らかの値を代入してやる必要があるからちょっと気になる部分だ。
     その心配はあまり要らないのだが、取り敢えず説明しておこう。 そもそもこの定数 h が登場したのは、前回求めた次のような式の積分定数としてであった。
     今回は σ と τ を同一視しているので、微分は惑星の運動の角速度 ω を意味することになる。 つまりこの式は r × rω = h ということだから、これは、ケプラーの法則の一つである「面積速度一定」を表しており、もし両辺に惑星の質量 m を掛けたなら、角運動量保存則を意味している。 しかし今はその値が具体的にどうなるかは考えないでおこう。
    ずれを調べる
     では先ほど話した計画を実行していくことにする。 (1) 式はこのままでは (3) 式を満たさないだろう。 しかし前回と同じ理由で (3) 式の右辺第 2 項を無視してやった場合には、 (1) 式がそのまま当てはまることが確認でき、ついでに次の関係式が得られる。
     これを使えば後で h の値を考える必要がなくなるだろう。 このように、(3) 式の右辺第 2 項は相対論的な補正を表しており、それがない場合にはニュートン力学的な運動を表す式になっていることが分かる。
     ところが (3) 式の右辺第 2 項を有効にした場合には、ニュートン力学の解に僅かな変更が加わるだけのはずなので、それを次のように表してやろう。
     これを (3) 式に代入してやれば χ ( ) についての微分方程式が得られる。 それを解いてやればいいだろう。 ・・・などと考えていたが、それは甘い考えだった。 χ はごく小さい関数だと仮定したにも関わらず、 の増加に伴ってどこまでも増加を続ける解が出て来てしまって、前提を崩してしまうのだ。
     実はこれは非線形微分方程式を解く時には良く起こる問題であり、解くためにはちょっと技巧的なことが必要になってくるのである。
    ...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。