1.被告人Xは、真正な供託金受領証から切り取ったA供託官の記名印および公印押捺部分を、虚偽の供託事実を記載した供託書用紙の下方に接続させる方法で、改ざんを行っているため、このXの行為が公文書偽造罪(155条)に該当するか問題となる。
まず、文書偽造罪の本質は、文書の作成名義の真正を保護するものと考える(形式主義)。なぜなら、文書偽造罪の保護法益である公共の信頼を保護するためには、作成名義の真正を保護する必要があるからである。 これに対して、文書偽造罪の本質を文書内容の真正を保護するものと考える説がある(実質主義)。しかし、この説だと、他人の名義を偽っても文書の内容が真実である場合は処罰されないこととなり、文書に対する公共の信頼を害することとなり、妥当ではない。
そこで、刑法は形式主義を採用していると解し、文書の偽造は、文書の作成名義人以外の者が、権限なしに、その名義を用いて文書を作成することと解する。そして、「偽造」が成立するためには、文書が一般人をして真正に作成された文章であると認識されるに足りる程度の形式・外観を備えていることが必要となる。なぜなら、この程度に至らない文書では、...