近代の国民国家は、共同体を保証するものとして想定された抽象的なネイション概念の中に地域的、文化的、民族的、言語的、階級差異を溶解させることによって成り立ったという意味においても、一つの擬制であり、フィクションに他ならならず、ネイションへの自己同化を拒否して分権への欲求を持ちつづける他者を最初から内包していたので、ネイションとエスニシティとの実質的な分離を克服しえない構造を本来的にもっている。
列強の植民地支配という歴史的背景を負って第三世界に族生した国民国家群は、最初からナショナルな共同性を持ちえない擬制的性質を宿命的に賦与され、今や全世界に国民国家が成立している現在の状況は、内に様々な差異や多元性を抱えながら、それを抽象的な単一のネイションの名によって観念的に覆い隠す国民国家の擬制性が普遍化した事実を示していると言ってよい。
国民国家の擬制性が普遍化した事実は、難民問題の発生源の究極にあるものである、ナショナルなアイデンティティのゆらぎを必然的にもたらす国民国家の擬制性と、しかも、国民国家体系の中で難民にとっての最大の悲劇である彼らが、国境を越え、国民国家の枠を超えて流出しながら、その流出先においても自らのアイデンティティの根拠を用意には見出しえないという点において、難民問題と関係するのである。
彼らは、難民として流入した先がまた国民国家であり、そこにおいても、彼らは、歓迎されざる他者、さまよえる異邦人として、その国のネイションに同化できず、アイデンティティの確立を果たしえない、という点において、難民は、現代世界を覆う国民国家の体系の中で、自己のアイデンティティの確立を阻む二重の悲劇を負っていると言ってよい。
難民問題の変容と対応をめぐる一考察
近代の国民国家は、共同体を保証するものとして想定された抽象的なネイション概念の中に地域的、文化的、民族的、言語的、階級差異を溶解させることによって成り立ったという意味においても、一つの擬制であり、フィクションに他ならならず、ネイションへの自己同化を拒否して分権への欲求を持ちつづける他者を最初から内包していたので、ネイションとエスニシティとの実質的な分離を克服しえない構造を本来的にもっている。
列強の植民地支配という歴史的背景を負って第三世界に族生した国民国家群は、最初からナショナルな共同性を持ちえない擬制的性質を宿命的に賦与され、今や全世界に国民国家が成立している現在の状況は、内に様々な差異や多元性を抱えながら、それを抽象的な単一のネイションの名によって観念的に覆い隠す国民国家の擬制性が普遍化した事実を示していると言ってよい。 国民国家の擬制性が普遍化した事実は、難民問題の発生源の究極にあるものである、ナショナルなアイデンティティのゆらぎを必然的にもたらす国民国家の擬制性と、しかも、国民国家体系の中で難民にとっての最大の悲劇である彼らが、国境を越...