精神保健福祉援助実習
「生活のしづらさを抱える精神障害者への支援において精神保健福祉士としてSSTをどのように活用するか述べてください。」
精神保健福祉援助実習
「生活のしづらさを抱える精神障害者への支援において精神保健福祉士としてSSTをどのように活用するか述べてください。」
精神障害者は、その障害・疾患ゆえに、対人関係を良好に維持することや、ストレスへの適切な対処などが容易にできないことが往々にあり、苦労をする。
SSTは、社会生活技能訓練であり、精神障害者の障害・疾病・ストレスに対する対処技能を向上させる方法である。単に経験的な生活指導とは異なり、認知行動理論に基づいて対人的コミュニケーションを改善する訓練を行なうものである。認知領域、感情領域、精神運動領域での活動を賦活して、精神障害者が主体性を回復するために効果的な訓練方法である。
リバーマンは、SSTを以下のとおり定義する。
SSTは、社会的相互作用を効果的に行なう社会的行動の実践力を習得することである。このような実践力に必要な技能としては、①正確な社会的知覚(受信能力)、②認知過程(さまざまな選択可能な諸行動のなかから最善の行動を選択する能力)、③実行(選択した行動を適切な言動によって他者に伝達する送信能力)という3つがある。
また、リバーマンはSSTの目的を次のように述べる。
SSTは、心理的・生物学的脆弱性をもった個体を強くして、生活のなかで起きてくるストレスや地域社会に適応していく力をつけ、家族との葛藤や緊張に対処していく力をつける。個人が社会生活のなかで必要とするさまざまな道具的役割行動を訓練することである。その道具的行動としては、服薬の自己管理、住居を見つけて保持すること、レクリエーションや余暇に必要な技能、金銭管理、公共施設の利用の仕方、人間関係をつくり出して維持していくことなどである。
SSTは次の10段階で実行される。
①問題を定義する、②利用者が持つ長所と能力に注目する、③受容的で相互に尊敬しあえる関係をつくる、④目標を設定する、⑤行動リハーサル(実際の生活に似通った状況を設定してロールプレイをする)、⑥正の強化(行動が褒められることで自信がつく)、⑦行動形成(長期目標を小さな目標に細分化し、それらの目標に到達するごとにその行動を強化していく)、⑧促し行動(望ましい行動をそれを強化することが期待できない場合は、短いことばや言い回しを指示したり効果的な非言語的行動を教える)、⑨モデリング(行動で示して見せることによって行動の改善を教える)、⑩実際の場での練習(実生活のなかで行動を実践する)
SSTのセッションの流れとしては、次の8段階がある。
①初めの挨拶、②新しい参加者を紹介する、③目的と決まりを確認し合う、④宿題の報告を聞く、⑤練習課題を明確にする、⑥ロールプレイで技能を練習する、⑦まとめ、⑧終わりの挨拶・次回の予告
通常は、数人のメンバーを対象にして、複数のスタッフで、週に1回、1時間程度の頻度で行なう施設が多い。集団で行なうことで、単に効率的なだけでなく、同じメンバーからのフィードバックにより自尊心が高まり、仲間意識が芽生え、セッション外の交流も深まる。また1つの問題に多くの解決方法が提示されることで考えが広がる。自分が提示した解決方法が採用され、人に役に立つ経験が増える、といった効果が期待できる。
SSTの基本姿勢としては、できないところを直す方法ではなく、こういうことができるようになりたいという希望を実現するための方法である。
実施するうえでのポイントとしては、①本人の希望や目標を中心に課題を選ぶ、②本人の練習行動のよいところを見つけてすぐさま褒め、さらによくなる点を共有してチャレンジする、③他の人のやり方をお手本として学ぶ、④ロールプレイで練習したことを実際の生活で試し、それを身につけるために宿題を出す、などである。
このようにSSTを行なうことで、精神障害者に社会的・環境的ストレッサーに対する自己対処技能の習得を促す。これによって、疾病の再発を予防し、疾病や環境的ストレッサーによってもたらされる能力障害を予防し、さらにそれからの回復を図ろうとする。SSTは、エンパワメントアプローチのツールとして有効なプログラムである。