『現代社会と福祉①』
「福祉政策における「需要」、「ニーズ」、「資源」の概念について述べなさい」
『現代社会と福祉①』
「福祉政策における「需要」、「ニーズ」、「資源」の概念について述べなさい」
福祉政策の役目は、福祉サービスを必要とする人々に対して福祉サービスを提供することである。適切な福祉政策を行うために、ニーズと需要の概念についての理解が必要である。
ニーズと需要は似たような意味の言葉であるが、社会福祉学においては区別される。その差異について述べると、以下の通りである。
第一に、ニーズの根拠は道徳・価値であるのに対して、需要の根拠は欲望・欲求である。第二に、ニーズの根拠となる道徳・価値は客観的なものであり、需要の根拠となる欲望・欲求は主観的なものである。第三に、ニーズ・需要が存在するか否かの判断基準は異なる。ニーズである(必要である)とされるか否かは、想定される望ましい状態がそれによって実現できるかどうかにかかっている。個人の主観を超えた客観的に存在する道徳や価値に照らして、必要とされるものが提供されることが正しいか正しくないか、つまり善悪がその判断基準となる。需要の場合は、それを欲している人の欲求充足につながると思われているか否か、言い換えると快か苦かが、需要があるかないかの判断基準となる。ここで問題となるのは、快・不快の利害ということである。
社会サービスに対するニーズの判定は、その社会サービスを利用する者が自らの感じ方に基づいて行う場合と、第三者による客観的な基準に基づいて行われる場合がある。前者が主観的なニーズ、後者は客観的なニーズである。前者は、フェルトニード、表出されたニード、直感的必要と呼ばれてきたものである。後者は、専門性や社会通念に基づいて判断される。
ニーズの概念には他にもいくつかの種類があり、それらについて簡単に述べる。
三浦文夫は社会福祉政策論のなかで、貨幣的ニードと非貨幣的ニードを区分した。貨幣的ニードとは、ニードそのものが経済的要件に規定され、貨幣的に測定されうるものであり、さらにそのニードの充足は主として金銭給付によって行われるというものとされる。非貨幣的ニードとは、そのニードを貨幣的に測ることが困難であり、その充足に当たっては金銭給付では十分に効果をもちえず、非現金的対応を必要とするものであり、また貨幣的には表示しえない生活上の諸障害に基づいて現れる要援護性を意味し、したがってそのニードの充足に当たっては、現物または人的サービス等によらなければならないものである。
ブラッドショーは以下の4つのニーズを挙げる。感知(感得)されているニーズは「~してほしい」と感じているニードをいう。これに対し、表明されたニーズは、感知されているニードを満たそうとして行動に表されたニードをいう。規範ニーズとは、何らかの価値基準や科学的判断に基づいて確認されているニーズをいう。これに対し、比較ニーズとは、他人や他の集合体の状態との比較に基づいてニーズが存在するとされる。
その他に、潜在的ニーズとは、ニードをもつ人々があるニードの存在を自覚あるいは感得していない場合をいう。これに対し、顕在的ニーズとは、その状態の解決の必要性を、本人が自覚あるいは感得している場合をいう。
続いて、資源とは、何らかのニーズを充足する機能をもった客体のことである。社会政策における資源は、「報酬」と「用具」に分類できる。「報酬」とは、必要の充足にとって直接役に立つ資源であり、雇用機会の提供や職業訓練といった現物給付として提供される。「用具」は、現金給付、利用券といった必要の充足にとって間接的に役に立つ資源を言う。
社会資源とは、ニーズを充足するさまざまな物資や人材の総称で、具体的には、制度や政策、法律、施設、サービス、備品、資金、情報、知識、技術、人材などである。