社会理論と社会システム
「家族はその機能を外部化したり、また虐待などの問題に見られるように様々な矛盾をかかえています。今後、家族が私たちにとってどのような意味をもつこととなるかを考察してください。」
社会理論と社会システム
「家族はその機能を外部化したり、また虐待などの問題に見られるように様々な矛盾をかかえています。今後、家族が私たちにとってどのような意味をもつこととなるかを考察してください。」
アメリカの文化人類学者であるマードックは、様々な社会の家族形態を調査して、家族を、核家族、拡大家族、複婚家族の3つに分類した(『社会構造』,1949年)。そして、どのような社会でも、家族の基本的な単位は、夫婦と未婚の子からなる核家族であるとした。
さらにマードックは、核家族には基本的な4つの機能があると述べた。それは、①性的機能(夫婦間の性的欲求の充足および規制を担う)、②経済的機能(共住共食および性にもとづく分業としての経済機能)、③生殖的機能(子供を産む)、④教育的機能(子どもを世話して一次的社会化をする)である。核家族は、最小の親族集団であり、社会の核と考えられ、それは「核家族普遍説」といわれるものである。
この理論に対して、T.パーソンズは、近代社会においては上記4つの機能は核家族固有の機能とはいえなくなったと述べた。産業社会では、生産活動は企業が担ったり、教育機能は学校教育が担当するように、家族外のシステムが専門分化してきた。その結果、核家族本来の機能は、「子どもの一次的社会化」と「成人のパーソナリティの安定化」であるとされる。前者について述べると、それは、幼児期・子ども期の躾を通じてパーソナリティの核を形成する営みである。家族は、子供が生まれて初めて所属する集団であり、生活のほとんどの部分をそこで過ごすため、一生を通じて変わることのないパーソナリティの基礎的部分が家族のなかで形成されることとなる。子供にとって、家族はたいへん重要な意味をもつ。
これら2つの機能は、家族の成員である個人にとって重要な機能であると同時に、社会にとってはその維持や発展のために欠かせない意義がある。それは、将来の成員を確保し教育する世代的な再生産と、日々の生命や労働力の再生産を遂行することにあり、核家族に固有な機能、つまり家族以外の他の集団が行うことは困難な類のものである。
さて、家族の機能は時代や社会によって異なり、変化している。先のパーソンズの理論のように、産業化にともなって、家族の機能は縮小化されてきたというのが一般的な理解である。
家族の形態に関しても変化が進行している。先進国では、家族の小規模化・核家族化・シングル化が進んでいる。日本の場合、平均世帯数は2005年には2.55人となった。核家族世帯の割合は57.9%である。この割合は1985年から逆に緩やかに減少する傾向にある。注目すべきは、単独世帯の増加傾向であり、2005年には29.5%となった。
シングル化は、家族に関するライフスタイルの多様化によって一人暮らしの意味それ自体が変化したことを示している。単身世帯は長らく、未婚の青年世代が大多数を占める家族予備軍とみなされがちであったが、現在では様々であり、未婚の中高年・配偶者と離別した人・死別した高齢者等が含まれる。近年のシングル化は、未婚化・晩婚化・離婚増加・高齢化などが作用した結果であると考えられる。
人々は、従来の家族規範に縛られずに、主体的にライフスタイルを形成することがある程度可能となった。先に述べた家族の機能の外部化も同時に進行している。それは、社会の自由度が増し、人々は家族の楔から開放されたということであるが、これによる問題も発生している。例えば、幼児虐待などのニュースがマスコミによって頻繁に報道されているとおりである。
自由と制約は天秤のような関係であり、今後は制約を強めることが世論的に求められる方向性となりうる。虐待のような問題への対処としては、法律の整備や行政のしくみによる対策は行ってしかるべきであり、必要な社会的コストであろう。しかしながら、その効果はある程度までのものである。保守的な倫理観の教育に関しては、家庭内で実施されるのであれば効果はあろうが、教育機能の外部化が進んだ現代では絵に描いた餅のようなものだと思われる。
家族関係は、テクノロジーの発展とともに、今後ますます希薄なものとなろう。実際に、家庭内の子どもはインターネットによるコミュニケーションに多くの時間を費やすようになり、家族間で過ごす時間は減少していることと想像される。これは家族制度の崩壊の序曲ではなく、家族自体が問い直される時代の永続だと思う。血縁や婚姻による濃い関係のみならず、知人との広く薄い関係であっても、「成人のパーソナリティの安定化」という先にあげたパーソンズの機能となっているのであれば、家族関係と認定することも可ではなかろうか。