「製紙業界における囚人のジレンマ」
1.本論文の目的
紙は品質において差別化ができない製品である。それゆえ、各製紙メーカーは価格における競争をしやすい。そのような価格競争に陥るメカニズムを囚人のジレンマの考え方を利用して分析し、その対策を王子製紙の立場から探るのが本論文の目的である。
2.1990年代の製紙業界と問いの設定
2-1 1990年代の製紙業界
1989年から1990年にかけて、上級紙は1kgあたり209円から161円(2005年を基準とした実質ベース)と約24%下落している。このような急激な価格の低下は、上級紙の供給過剰によるものであるとされている。しかし、1989年以前に供給過剰を見越した製紙メーカー各社は業界全体として減産調整に動いていた。
『王子製紙社史 資料編』より筆者作成
実質価格は名目価格を消費者物価指数によりデフレート
2-2 問いと仮説の提示
では、製紙メーカー各社において供給過剰による価格下落という合意がなされていたのに、業界全体として減産調整がうまくいかず、極端な価格下落につながってしまったのはなぜであろうか。これが本論文における問いで...