甲は、自己のクレジットカード支払用銀行口座の残金残高が少ないことを知りながら、代金支払いの意思なくXデパートでカメラを購入し、クレジットカードで支払いをした。その際、店員から未成年に見られ、また自己のカードである確認を受けるなど不愉快な扱いを受けたため、Xデパートの接客態度に腹の虫がおさまらずにいた甲は、後日、その鬱憤晴らしにデパートに仕返しをすることを思い立ち、「Xデパートで売っている食品の多くは賞味期限切れであるので注意しよう」とデパート内の顧客用伝言板に落書きしたため、この落書きは、多くの買い物客の目の触れるところとなった。甲の罪責を論ぜよ。
まず、支払いの意思・能力がないのに自己名義のクレジットカードを使用してカメラを購入した甲の罪責はいかなるものか。
刑法において詐欺罪(刑法246条)は、「人を欺いて財物を交付させ」、または「財産上不法の利益を得」たか、「他人に得させた」場合に成立し、10年以下の懲役に処する、としている。人を欺く(欺罔)とは、取引の相手方が真実を知っていれば財産的処分行為を行わなかったような重要な事実を偽ることである。とすれば、Xデパートは甲が代金支払の意思も能力もないという事実を知っていれば、信義則上当然に取引を拒絶しなければならない義務を負うことになる。したがって、それを秘してXデパートに対しクレジットカードを提示することは欺罔行為といえる。
また、詐欺罪は交付罪であり、占有者の「意思に基づく占有の移転」が必要となる。この点で、占有者の意思に反する占有の移転を要件とする窃盗罪と区別できる。この場合、Xデパートの店員はカメラを甲に渡す意思があり渡したのであるから、占有者の意思に基づく占有移転となり、窃盗罪にはあたらない。
では、甲に対する詐欺罪(刑法246条)は財物詐欺罪(同条1項)か、利益詐欺...