いわゆる「胎児性傷害」について論ぜよ。
胎児性傷害の問題は、胎児の段階で傷害を与え、その傷害が出生後にも影響を及ぼした場合、傷害罪(刑法204条)・過失傷害罪(刑法209条)は認められるかである。
なぜなら、刑法上胎児は「人」ではない。人の始期をめぐる学説には争いがあるが、判例・通説は一部露出説であり、母体から胎児の身体の一部が出て初めて「人」と認められる。そのため傷害罪等の客体とはならず、胎児が客体となるのは堕胎罪(刑法212条以下)のみである。堕胎も過失堕胎、胎児傷害は不可罰であり堕胎未遂も不同意堕胎(刑法215条)以外は不可罰であることから、「人」については生命のみならず身体ともに包括的な保護を受けるのに対し、胎児は限定的な保護を受けるに過ぎない。したがって、胎児に対する傷害は堕胎罪に該当せず、傷害罪の客体にならないとすれば胎児の身体は保護されないという問題が生じる。
胎児性傷害を肯定する見解として、胎児傷害説、母体一部傷害説、母体機能傷害説、生まれてきた人傷害説があり、否定する見解として胎児傷害否定説がある。通説は、胎児傷害否定説であり、胎児は「人」ではなく、実行行為時に「人」ではない胎児に対する傷害を否定する。...