本書は、労働争議を取り扱いながらも、格差と貧困の問題を描いている点において、時代による格差の表れ方について考えさせてくれる。
本書において描かれている大正末期から、日本国憲法が公布された後の昭和の中頃までは、労働者は、労働者階級としてその生活を守るための手段を、団結という形に求めるほかなく、歴史の中でも様々な労働争議が行われ、貧困からの脱却は団結と戦いの歴史なのだと認識させられる。
団結と戦いは、血と汗、涙を費やして、人間としての尊厳を取り戻そうとするものであり、その中から何かが生まれてくるのだと思う。
描かれている時代の労働者としての階級や貧困は、ほとんどの場合どの階級の家庭に生まれたかで決まってしまったのであろう。
賤民の子は賤民、貧乏人の子は貧乏人という残酷な運命を背負って生まれ、そこからの脱却を願って団結し、戦わざるを得ない時代である。
本書では、背景となっている大正15年に、大同印刷において職工の解雇を発端とする労働争議の後半一ヶ月あまりを、工場の前に建てこんだ工員たちの住む長屋を舞台に描いているが、そこで起こる不幸な出来事は、まさしく血、汗、涙を費やす、現在から見ると目を背...