はじめに
日本の死刑制度は3世紀の中ごろから刑罰として存在していたことが「魏志倭人伝」によりうかがえる。また、701年の「大宝律令」によって初めて法文化された。(1)このように我が国における死刑の歴史はとても長いが、古代社会の死刑は威嚇、復讐のためとして国家の名によって行われていた。これは「目には目を、歯には歯を」といった応報観に基づくものである。確かに一般の人は、被害者は応報感情を抱くものであると考えるであろう。ここにいう応報感情は古くから人間が持つ純粋な感情である。しかし、今日の刑罰権の全てが国家に帰属している以上、国家が個人に代わって復讐を行うということは考えられない。このように現在の死刑制度の本質が復讐でないとすると何が考えられるのか。本論文では死刑制度をめぐる問題点から死刑制度の本質を探り、死刑存廃の是非について検討していく。
二. 我が国における死刑制度と状況
我が国の現行刑法は12種類の犯罪(内乱、外患誘致、外患援助、現住建造物放火、激発物破裂罪、現住建造物等侵害罪、汽車転覆等致死罪、往来危険による汽車転覆等致死罪、水道毒物等混入致死罪、殺人罪、強盗致死罪、強盗強姦致死罪)に死刑を定め、刑事特別法で5種類の犯罪(航空機強取致死罪、航行中の航空機を墜落させる等の罪、人質殺害罪、爆発物使用、決闘死)に死刑を定めている。(2)
死刑選択の許される基準として最高裁は「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被 害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見 地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される。」と述べている。
死刑存廃の是非
目次
一. はじめに
二. 我が国における死刑制度と状況
三. 死刑制度をめぐる問題点
1. 死刑制度と世論
2. 死刑の抑止力
3. 死刑制度の代替刑
四.おわりに
一. はじめに
日本の死刑制度は3世紀の中ごろから刑罰として存在していたことが「魏志倭人伝」によりうかがえる。また、701年の「大宝律令」によって初めて法文化された。(1)このように我が国における死刑の歴史はとても長いが、古代社会の死刑は威嚇、復讐のためとして国家の名によって行われていた。これは「目には目を、歯には歯を」といった応報観に基づくものである。確かに一般の人は、被害者は応報感情を抱くものであると考えるであろう。ここにいう応報感情は古くから人間が持つ純粋な感情である。しかし、今日の刑罰権の全てが国家に帰属している以上、国家が個人に代わって復讐を行うということは考えられない。このように現在の死刑制度の本質が復讐でないとすると何が考えられるのか。本論文では死刑制度をめぐる問題点から死刑制度の本質を探り、死刑存廃の是非について検討していく。
二. 我が国における死刑制度と状況
我が国の現行刑法は12種...