まず初めに目に付くのは鬼の登場の仕方である。『安義橋』では、鬼は女に化けて初めから橋の上にいた。『宇多郡』では、突如空が掻き曇り、空中から腕が現れて渡辺綱の髪を掴んで引きずり上げた。そして『羅城門』では、しるしの札を置いて綱が帰ろうとしたとき後ろから兜を掴まれ、振り返ると鬼がいた。
第二には、目的達成の成否である。安義の橋に現れた鬼は、結果的に男を食い殺し、目的を果たしたが、宇多の郡の鬼は斬り落とされた自らの腕を奪い返しはしたものの、その後綱や
『安義橋』・『宇多郡』・『羅城門』の鬼の違い
まず初めに目に付くのは鬼の登場の仕方である。『安義橋』では、鬼は女に化けて初めから橋の上にいた。『宇多郡』では、突如空が掻き曇り、空中から腕が現れて渡辺綱の髪を掴んで引きずり上げた。そして『羅城門』では、しるしの札を置いて綱が帰ろうとしたとき後ろから兜を掴まれ、振り返ると鬼がいた。
第二には、目的達成の成否である。安義の橋に現れた鬼は、結果的に男を食い殺し、目的を果たしたが、宇多の郡の鬼は斬り落とされた自らの腕を奪い返しはしたものの、その後綱や頼光らの命を狙い、逆に討たれてしまった。また羅城門の鬼は安義の橋や宇多の郡の鬼と同じ手段、あるいは同じ目的で邸内に入り込んだにもかかわらず、首尾よく腕を奪い返して去った。ただし、この羅城門の鬼はその後、京を離れたらしい。結果的に言えば綱の勝ちに終わったともいえるだろう。
また主役となる人物にも違いがある。『安義橋』で橋を渡ろうとした若い男は、酒の席での強がりを不本意ながら実践しなければならなくなった。そのため橋に着いた頃には既に心乱れ生きた心地がせず、橋の上にいた女を必要以上に恐れたのだが、逆に、...