1.はじめに
現代日本においては「交通の公共性」「教育の公共性」「放送の公共性」など、「公共性」や「公」が数多くの場面で用いられ、主張される。しかし、「公共性」や「公」といった言葉は多義的で曖昧な概念である。
『広辞苑 第五版』(新村、2005)では「公共性」を「広く社会一般に利害や正義を有する性質。」と定義し、『大辞林 第三版』(松村、2006)では、「広く社会一般に利害・影響を持つ性質。特定の集団に限られることなく、社会全体に開かれていること。」と定義している。だがやはり、こうした定義は漠然としたものである。それゆえ、「公共性」という言葉は具体的に定義されないまま、都合良く用いられやすい。
そこで、本レポートでは、交通サービスの公共性という点から、「公共性」という言葉の意味について考えたい。
2.「公共性」概念の多義性
交通サービスの民営化や電力の自由化などは、しばしば交通サービスや電力の「公共性」の高さを根拠に反対された。交通サービスでは私鉄との過度な競争で安全性が下がること、低利益の路線が廃止されることなどが、電力の自由化では競争激化によって安定的な電力供給ができなくなることな...