認知症を発症した本人と家族を支援する精神保健の立場から、その取り組みを述べる。
認知症とは、脳の後天的な障害によってそれまで正常であった知的能力が低下、喪失することである。原因となる疾患は多々あるが、主にはアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型の4つである。進行の様子は疾患によって異なるが、脳の神経細胞が壊れることで起こる記憶障害や見当識障害、実行機能障害等の「中核症状」と、中核症状から引き起こされる「周辺症状」が現れる。認知症患者の家族や周囲の人々が最も困るのが、徘徊や暴力、あるいは抑うつといった周辺症状への対応である。本稿ではこうした周囲の人々の戸惑いや負担を軽減し、本人と家族を支援する精神保健の立場から、その取り組みを述べる。
厚生労働省は平成17年度から「認知症地域医療支援事業」を開始し、認知症診断ができるかかりつけ医と、それを支えるサポート医の養成事業を始めた。日常的なかかわりがあり患者の様子をよく知るかかりつけ医は、本人や家族にとっても気軽に相談がしやすい。そこで、かかりつけ医に適切な認知症診断の知識・技術や家族からの悩みを聞く姿勢を習得させることを目的としたのがこの事業である。大阪でも2006年からこれらの取り組みが始まり、認知症の診...