『言語表象論』課題
―興味をひかれた近代作家の原稿を3点以上とりあげる―
パソコンが世に出回り、直筆原稿を作成する作家というのは、現代では少なくなったという、効率の面から言えば当然のことかもしれない。しかし、夏目漱石の直筆原稿のコピーが十数万円の価格で売られているなど、直筆の原稿には、手に取った者にしか伝わってこないものがある。近代作家の直筆原稿は面白い。そういった経験はこれまでなかったため、非常に興味を持てた。原稿の構造や字体、どのように書き加えられ、どれほど推敲されたのか。印刷物としての作品からは、作者の様々な想い(その対象は倫理観や道徳感など)が伝わってくるが、直筆原稿では作家の作品自身への想いが見えてくる。とりわけ文学好きというわけでもない自分にとって作品を読んでいなくても、別の意味で楽しめる要素が原稿には含まれているのだ。今回は、印象深い作家原稿についての見解を述べる。
(1)樋口一葉
明治期の代表的女流作家である彼女の原稿は見事なまでに美しい。原稿そのものが作品として美的要素を含んでいる。それは、非常に達筆であるからだ。書をならいとする時代の達筆であるから、本来は連綿...