物語を語るとなると、劇作家の方が小説家より幾分やりにくいところがある。それは、劇の始まる前に起こっていたことをどのように観客に告げたらよいのだろうかということだ。小説家にはこれは何でもないことである。小説家が過去の出来事を述べるのは、開巻第1章ですることもあり、その他どこでも好きなところでできる。ところが劇作家となると、まさか舞台の正面まで歩いて出て、それまでに起こったことを説明するというわけにはいかない。つまり、登場人物のある者が他の登場人物に向かって語ることにしなければならない。このため、劇の書き出しはいささか書きにくいところがある。それまで起こっていたことを語るのに、それが自然に、納得のいくように本筋のなかに挿入されていかなければならない。
例えばHamletでは、兵士たちが亡霊の存在を信じないHoratioにHamletの父の亡霊のことを語っている場面がある。「昨日と同じだ、冷たい空気が青く光揺らいで大気が音を忘れたかのような静寂。見ろ、見ろHoratio」の言葉を受けて、またも亡霊が現れるのである。こうしてShakespeareは、一種の興奮とサスペンスの状態に我々をひ...