B評価でした。
大谷實 『新版 刑法講義総論 第2版』(成文堂)
医師Aは患者甲を殺したいほど憎んでいたが、某日、甲殺害の故意で看護師Bに毒薬入りの注射器を手渡し、甲への注射を依頼した。ところが、Bは、それが毒薬入りの注射器であることを見破り、自らも甲を憎んでいたので、これを奇貨として、殺意をもって甲に注射し甲を死亡させた。A、Bの刑事責任について論ぜよ。
Aは、毒薬入りであることを知らないBをあたかも道具のように利用して、甲を殺害しようとしているが、結果的に、Bはその行為の意味を十分に理解して、自ら殺意を持って甲を殺害している。つまり、Aは主観的には間接正犯の意思で、客観的には教唆にあたる行為を行っている。 このような間接正犯と共犯との間の錯誤の取り扱いについて、(a) Aは殺人罪の間接正犯、Bはその直接正犯であるとする説、(b)客観的に教唆の事実が生じた以上は、Aに教唆犯、Bに正犯が成立するとする説、(c)Aに殺人の実行の着手を認めるとともにBに対する教唆犯を認め法条競合と解する説とが対立している。どの説が妥当であるかを以下で検討する。
まず、Aに間接正犯が認められるかを検討する。間接正犯が正犯であるゆえんは、直接正犯と同じよう...