はじめに
従来の行政事件訴訟法においての国民保護・国民の権利を得るための法的手段としては、処分の取消しの訴え・裁決の取消しの訴え・無効等確認の訴え・不作為の違法確認の訴え4種が抗告訴訟として存在していました。これら改正前の行政救済のあり方と、平成16年度6月11日の改正条文と比較しつつ、国民の権利拡大について、論じてみようと思います。とくに、今回の改正点では、37条の2(義務付け訴訟)と37条の4(差し止め訴訟)の「行政の裁量権の範囲」とは何かについて、そして第9条の原告適格の改正による国民の行政事件訴訟法による救済への期待感について考えてみようと思います。さらに、改正後の重要判決の小田急線連続立体交差事業認可処分取消、事業認可処分取消請求事件裁判(平成17年12月7日大法廷判決 平成16年(行ヒ)第114号)をとりあげて、原告適格の拡大や国民権利の拡大についてのべようと思っています。
?行政事件訴訟法の改正の主なポイント(9条・37条以外)
(1)義務付け訴訟・差止訴訟を明文で規定。
従来、法定外抗告訴訟とされていた義務付け訴訟や差止訴訟を明文で明記することとなりました(3条6項・7項)。
(2)抗告訴訟の被告適格が行政庁から行政主体へ変更
以前は、取消訴訟は処分庁を被告とすることが原則でありましたが、処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に属する場合には、処分・裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体に 対して取消訴訟を提起することとなりました(11条1項)。
(3)抗告訴訟の管轄裁判所の拡大
以前は、取消訴訟の管轄裁判所は、処分又は裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所が原則でありましが、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄も原則的管轄裁判 所として追加されました(12条1項)。
なお、これに伴い「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」の特定管轄裁判所を認める規定は削除されることとなりました。
題名 行政事件訴訟法の改正と国民の権利
― 平成16年度の改正により、国民の権利はどのように拡大していくのか? 抗告訴訟(第3条)の義務付け訴訟・差し止め訴訟における 「行政の裁量権」と「司法の審査権」 ー
目次
Ⅰ行政事件訴訟法の改正の主なポイント(9条・37条以外)
Ⅱ従来の抗告訴訟と原告適格の意義について
(1)抗告訴訟
(2)原告適格
Ⅲ改正点と権利拡大
(1)出訴期間の変更による、権利の拡大
(2)訴訟部分における権利の拡大
(3)義務付け訴訟・差し止め訴訟の法定における権利の拡大と問題点
Ⅳ Ⅲの改正点と権利拡大における問題点である行政裁量の範囲について
(1) 前提として、行政行為の裁量とはなにか?
(2) 覊束行為と裁量行為について
(3) 自由裁量(便宜裁量)と法規裁量(覊束裁量)
(4) 自由裁量と法規裁量の区分法 学説の対比
(5) 自由裁量と裁判所の判断
(6) 高度に専門化する行政行為に対する「司法のチェック機能」の今後のありかた
(7) 裁量統制
(8)手続的裁量のコントロール
Ⅴ「行政の裁量権の範囲」と義務付け訴訟・差し止め訴訟の要件
Ⅵ原告適格が拡大さ...