墨子は、戦乱時の苦痛にあえぐ民衆を救済することを目的として、現実的で非戦論的な「兼愛説」を説いている。哲学的追求に欠ける部分もあるが、当時の切迫した時代的思想としては絶大な影響があった。
戦争は罪なき人民を殺害し、人間の財を喪失し生活を破壊する。墨子は、侵略のための戦争がいかに罪悪であり民衆に不利であるかを極論している。社会を平和に保つためには、衣食住の安定と積極的な勤労及び生産の努力を奨励し、優秀な政治家による万人平等の政治の実現を主張した。
『偉大な先覚者(聖人)は、世(天下)が乱れる「原因」を追究するところに使命があるという。これは医者が病を治療するのと同じであり、必ず病気の原因を知らずして治療を進めることはできない。さらに、偉大な指導者は世界を平和に治めることを責務としなければならない。
世が乱れる原因を考察すると、それは人間がお互いに愛し合わないところから起こる。子供が親を尊敬しないことは既に世の乱れである。子が自分の事だけを考え、また親も自分の利益だけを追求することや、兄弟においても同様に利己的になることは世の乱れである。
他人の物を盗んだり人に害を加えることも同じで...