「変わらない」ためには、「変わる」必要がある
他人と過去は変えられない。変えられるのは未来だけ。だがそれも、自分が変わる事を通してはじめて変えられる。
今日の自分が「こんな風」であるのは、昨日の自分の努力の結果だ。だがそれも、努力を果実に導く「環境・条件」があったればこそ。その「環境・条件」が失われる時、手を拱いていては「こんな風」は維持できない。「こんな風」を維持したい、「変わらない」ためには、自分が「変わる」必要があるのではないか。
社名変更はその象徴だろう。日本経済新聞デジタルメディアは、開発した多変量解析法による企業評価システムを30年運用してきた。それによると、第一回1977年と2008年度との間で、面白い結果が見られる 。
つまり、第一回に上位10社に選ばれた会社の30年後の姿をみたところ、ふたつのグループに分かれた。ひとつは30年後も50位以内、「優良企業」の地位を維持したグループ。他は500位以下に落ちこんだグループ。前者は合併(による社名変更)や社名変更を実施した企業で、後者は30年間社名変更をしなかった企業。「優良企業」で居続けられたかに関し、社名変更を象徴とする、「変わる」道を選んだ企業とそうでない企業で、大きく明暗をわけることになっていた。
労働生産性の向上 「率」と「パイ」
このことは私達の経済社会ではどうなるのだろうか。
失われた「環境・条件」の最大のものは、高度成長の後背にあった「人口増加」。裏返せば今日最大の課題は「人口減少」。そして「少子化・高齢化」である 。
それでは私達が仮に「変わる」と腹を固めたとき、一体どこに向かって「変わる」のが良いのか。またどうやって、このふたつの課題に答えられるのか、今月のクリップの中にヒントを探ってみた。
まず企業における方向性。それは労働生産性の向上 。
労働生産性とは企業財務では[付加価値÷従業員数]で計算され、マクロ経済では労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけの価値を産出したかをあらわす指標。一般的にわが国は、製造業が高く、サービス業で低い。ただ製造業の中で、生産性の低いセクターのシェアが縮小したために、製造業全体の比率が向上したという側面も見逃せない。つまり労働生産性を議論する場合、「率」と同時に「パイ」の大きさにも目配りする必要がある。
さてサービス業の状況を改善するには、まず小売業の過剰店舗・過剰雇用を解消しなければならない。そのためには都市機能の集約化と賃金体系の正常化が鍵になる。しかしこれで「率」は改善するが、「過剰」の解消で雇用吸収力は低下、「パイ」が縮小する。これを補うには医療・教育・保育といった生活関連サービスの成長を促す必要がある。
また同時に事業関連サービスも生活関連サービス同様、国際比較したとき、「パイ」が小さい。伸ばす余地がある。
「オープン」の発想 「組替え」の知恵
ではどうやったら生活関連サービス、事業関連サービスの「パイ」を増やせるのか。
この「どうやって」について、自分を他に対し開く「オープン」の発想が重要だと、経済産業省は考えている 。実は日本には世界に誇れる技術、コンテンツ、ファッション、その他の魅力が眠っている。これを宝の持ち腐れにしないこと。そのためには、ノウハウ、知識、情報を「組替え」ることがポイント。「組替え」には、各主体が「オープン」のスタンスをとることがなければならない。
例えば最近話題の多い地域医療での医師不足の問題。これを「数」の問題というより、「組合せ方」不全の問題、と捉える。「組合せ方」が地域医療の産業構造(=環境・条件)に合わなくなっている。つまり現状は、専門技術を持つ医師が専門性の薄い治療に忙殺され、サービスの低下が生じ、他方設備の重複投資で、個別病院の経営が悪化している。専門性と高価な施設が宝の持ち腐れ状態になっている。各主体が「オープン」のスタンスをとり、病院と開業医の機能分担、病院間の機能分担がはかられるなら、事態は大きく改善するはずだ。
今は、「過大な設備投資で経営危機→多くの診療科目を抱えられない→勤務医一人当たりの負担増→なり手がいない」、という悪循環に陥っているのではないか。
また現状の事業関連サービスの未発達は、ホワイトカラー部門の業務遂行プロセスの「見える化」遅延と表裏一体。ホワイトカラー業務のノウハウ・知識・情報が記述され、他に対し開かれ(=「オープン」)た状態が出現するなら、効率化・合理化のため、ある部分をアウトソースする(=「組替え」)ことも選択肢として浮かび上がってくる。
身内の集団内で威力を発揮した「摺り合わせ・チームワーク」の強みを補完する、「オープン」の発想が「少子化・高齢化」の時代に必須なのではないか。そして「オープン」をベースにした「組替え」の知恵が。
地域も 実は家庭でも
道州制は、都市圏間、農村部と都市圏間の機能分担の青写真をどう作るかという問題と考えるとわかりやすい。
また地域の町おこし、更には地域再生にも「オープン」と「組替え」はキーワードになる。地域を基盤とした観光、農業の振興は、農産品、郷土料理、祭り、昔話、伝統工芸品、町並み、古民家、自然景観などをどう組替えるか、また空間的にアジアまで見据えた「オープン」をどう具体化するかがテーマになりそうだ。
そして最後が家庭。
「少子化・高齢化」は家庭に端を発し、家庭に帰結するが、実はこれ、女性性と男性性の組替えの問題。組替えのための、こころとからだの「オープン」をいかに具体化するかという問題でもある。
「超少子化と家族・社会の変容」は日本の「ふたり(カップル)」が、個人(主義)志向の社会機構と家族(主義)志向の社会機構の板ばさみにあっている点を明らかにしている 。詳しくはレポートにあたってほしいが、解決にあたっては
・家庭が20世紀に確立された自由と平等の価値観に
対し開かれること、
・「ふたり(カップル)」の間の「親密さ」や情愛の表現様式を含む「セクシュアリティ」のあり方が変わること、
が必要である。
「いったん(合計特殊出生率が)1.5を下回った(註:超少子化)国で、その後1.5以上に回復した国は一つもない」。「超少子化」国日本が、いまの豊かさを維持したい、「変わらない」ためには、自分が「変わる」必要がありそうだ。
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情報社会生活マンスリーレポート 08年11月号
【今月の参考クリップ】
1.
・優良企業の30年の変貌を探る~1979年と2008年でランキング比較
http://www.nikkei.co.jp/needs/analysis/08/a081022.html
「変わらない」ためには「変わる」事が必要。第一回ランキングの
中から生き残っているのは、合併、社名変更した企業のみ。(by 神宮司信也)
2.
・人口減少に対応した経済社会のあり方
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/073.pdf
知恵と意思の問題。目先の景気もさることながら、中長期的には、
人口減少の問題にいかに対処していくかが日本社会の最大の課題。(by 神宮司信也)
3.
・産業別国際比較からみたわが国の労働生産性低迷の要因分析
http://www.jri.co.jp/press/2008/jri_080904.pdf
部署の壁・企業の壁を越えた情報共有・価値創造を促進する「スタ
イルの創造」と「プロデューサー型経営人材」育成がキー。(by 神宮司信也)
4.
・「知識組替えの衝撃 ~現代の産業構造変化の本質~」議事録
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/08090101.html
現代の産業構造を巡る3つの潮流:グローバル化、オープン化、知
識経済化。(by 神宮司信也)
5.
・超少子化と家族・社会の変容-セミナーの概要とパネルディスカッション
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18811201.pdf
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18811202.pdf
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18811203.pdf
「仕事と生活のバランスがとれる働き方を生み出した国は、グロー
バル化にもうまく対応している」。(by 神宮司信也)
Column
「変わらない」ために「変わる」
神宮司信也