「福祉社会の条件や基盤、原動力について
説明しなさい。」
社会福祉は、人間の福祉増進と社会諸政策と同様、人間の尊厳と基本的人権の尊重を基本的理念とし、市民一人ひとりが、幸福を追求するための社会基盤であり、その機会、その条件となる努力であり、主体的に人間らしく幸福に生きる権利の基盤、機会、条件であり、日常の生活の中での必要への努力が「福祉」とされている。
また、社会福祉は「福祉」をめぐる社会的方策や努力の一つではあるが、社会福祉だけが「福祉」の実現を目指しているのではなく、公共政策や社会の歩みそのものが「福祉」を目指しており、さらに、日本国憲法前文、第9条の平和主義を基礎とした第13条の幸福追求権、第25条の生存権を含め、人々の諸権利追求を「福祉」を捉えることができる。また、生存権は社会権的基本権の中心的位置を占め、「健康で文化的な最低限度の生活」は社会の標準的な生活様式が獲得された生活であり、市民的自由が獲得された生活、つまり人間らしい生活と解され、すべての人に権利として保障されるものである。 その上で人間らしい生活を確保する保障する制度として、国の責任のもと社会福祉、社会保障、公衆衛生が位置づけられている。この他に、憲法第26条で、国民の教育を受ける権利、義務教育について規定されているが、これは、幸福追求権を持つ一人ひとりが、社会で生きていく為には社会参加を担う能力を獲得し、お互いに尊重しあう精神を学ばずには自己実現が図れず、一人ひとりの発達と社会発展のために権利として保障し、生存権、教育権を主体的に人間らしく幸福になる為の基盤・機会・条件を明確にし「福祉」の社会的側面を示し、すべての人々に保障することで幸福追求権を実質的にする福祉の考え方であり、民主主義の思想の原点でもある。
また、「福祉」が必要とされるのは「福祉」に反する状況、「反福祉状況」があり、この「反福祉状況」とは、人々を苦しめ、人権を著しく侵害している社会状況であると言える。生産力を飛躍的に発展しているにもかかわらず貧困、所得格差の拡大、生活不安などは解消されず、資本主義社会の基本原理が人間の生存そのものを脅かす結果を招いている。他に、社会問題に対応するはずの社会体制や社会的規制の後退による、社会の公正や平等、連帯や共生の揺らぎ、国家権力の歪みが人々を抑圧し戦争へと駆り立てる事も「反福祉状況」と言える。この「反福祉状況」を解決し排除しようとする社会、社会問題に対応する制度や規制を充実させる社会、戦争による紛争の解決を排除する社会を「福祉社会」としている。特に、日本国憲法では、憲法第9条の戦争放棄・平和主義の宣言に加え、国民の自由権、民主的権利と共に社会権を含む基本的人権として明示されており、前述した第13条、第14条の「法の下の平等」第18条「奴隷的拘束の禁止」など各種の自由権が平和の構築として明示されている。戦争や暴力を前提した社会では福祉社会は成り立たず、社会福祉は戦争や暴力とは対極に位置しており、第9条の意義、依拠した国際貢献の可能性を求めている。
現在、日本での社会福祉の基盤は、日本国憲法第25条の生存権の考えが根本である。これを公的な責任をもって組織的、体系的に行う社会的仕組みとして社会福祉制度が設けられている。
社会福祉の基本は、政策・制度であり、政策・労働・市民活動の三つの次元からなり、社会福祉の全体像と変化・発展をとらえている。社会福祉が生活上の困難や問題に対応しサービスや援助を継続的に行い、それが一つの政策として明確に認められ制度として運営される事が前提であり、サービスや援助内容・質と十分な福祉の水準を維持するには、政策・制度による保障となる。このことから、「政策・制度としての社会福祉」は社会福祉の中心部分であり、社会福祉の実践、労働の主要部分は、政策・制度の裏付けをもって進められるのである。
しかし、実際に生活保障や援助が必要な高齢者、児童、障害者、単身世帯、生活困窮者に働きかけるのは社会福祉労働者であり、社会福祉サービスの活用方法、ケアの内容、援助の在り方は対象者の状況によって多様で、社会福祉の制度が整備されても、それらを実際に市民の生活に届け、活用されなければ社会福祉は市民のものにはならない。社会福祉制度を整備するだけでなく、どのような原理・原則に基づき実践するのか、対象者にどうアプローチするのかなど理論として明確に担い手に「実践・労働としての社会福祉」として継承されなければならない。
これら「政策・制度としての社会福祉」、「実践・労働としての社会福祉」は、社会福祉の中心部分であり専門的領域であるのに対し、市民が自ら参加し作り上げる独自の領域として存在する、多様な市民による福祉活動・事業があり、「市民活動・事業としての社会福祉」として地域を基盤に、共同事業、地域の新しい共同活動、非営利・協同などの活動がある。こうした市民による活動・事業が多く関わり、歴史的にも政策化・制度化された社会福祉施策・サービスも少なくないとされる。
これらは、社会福祉の成立、変化・発展を捉える基礎的理論であり、社会福祉の対象としての社会問題、民主主義・人権思想による運動、政策主体の三つの相互関係によって社会福祉の変化・発展を捉えることができ「三元構造」と言われてきた。社会福祉の在り方に変化をもたらすルートは三つとされ、一つは社会福祉の対象をめぐる問題状況の変化で、もう一つは社会福祉における理念や価値の発展とされる。三つめは、政策主体が社会福祉に変化をもたらす場合、「改革」という名で社会福祉制度の転換を行おうとする。
このように、国民側の民主主義の力である福祉活動が国民生活の実態と要求に根差し、権利としての社会福祉の理念や価値に沿った方向で改革を提起し、政策主体に働きかけることが重要であるとされている。
このことから、福祉社会を実現する大きな原動力として、市民による自主的な活動によってサービス供給主体の規制緩和やNPO法の施行などで、それまでは散発的だった活動が組織力強化や新たな事業の参画などで、その可能性を拡大し、地域全体の福祉水準の向上に繋がる。
国民はその福祉の向上に積極的に参画することが求められ、地域で発生する福祉問題を地域住民自身が解決方策を探り、行動し、国はそれを支援すると言う新たな役割が展開されるようになった。
さらに近年、第三の分権化が議論され、国の権限を市町村ではなくさらに小規模の住民の生活圏に権限を移譲し地域住民参画による福祉の推進を包括し、要援護者の組織化、住民参加による活発な活動に展開され多くの課題を残すも、より一層その推進が求められている。それにより、社会福祉協議会は重責を負い、同時に民生委員、児童委員や共同募金会等の活動を果たしてきた役割も今後の地域福祉促進のなかで、更に重要なものとなる。
その他にも地域福祉活動の実践を担うものとして。福祉公社、社会福祉事業団、生活協同組合、自治会、各種ボランティアなどが多数存在し、住民目線での福祉計画策定推進が進められ、住民参加による、情報提供や学習会、意見交換などの活動を通じ、地域住民が単なるサービスの受け手から担い手へと転じ福祉の当事者として活動していくことが、福祉社会を作っていく上で今後最も重要となるとされている。
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