目的
日本の映画産業は1950年代半ばのテレビの普及に始まり,ビデオの登場,余暇の多様化を背景として衰退の一途をたどり,観客動員数も減少している.このため,映画館での収益構造もかつての薄利多売から,より少ない観客からより高い鑑賞料金を取るように変わり,現在の高価に感じられる料金設定となった.こうして,ますます人は映画館から離れていったのである.しかし,日本映画である「世界の中心で愛を叫ぶ」は,300万部以上売り上げた小説を映画化し,社会現象とまでなっている.映画には市場規模には現れない影響力というものが大きいようである.斜陽産業と言われているにもかかわらず,映画はあらゆる分野に影響を及ぼし,社会現象までも引き起こすのである.
今回取り上げたノンフィクションの洋画「es」は,心理学界を揺るがした実験を題材としている.また,邦画「サトラレ」はノンフィクションではあるものの,「心の中の声が外界に伝播してしまう」主人公を中心としたストーリーであり,心理学的観点から分析するには大変興味深い内容である.映画の内容と社会との関係性を心理学の観点から考え,そして邦画と洋画との比較による二国間の類似点・相違点を発見することを目的とする.また,心理学的知見や専門用語などは,その部分に”*”を付け,各章末に全て記載した.
内容
大要 『es』 1971年,タクシー運転手のタレク(モーリッツ・ブライプトライ)は, 新聞広告で募集されていたスタンフォード大学心理学部の模擬刑務所での心理実験に応募した. その実験とは,看守役と囚人役に分かれて, 2週間,いくつかのルールに従いながら与えられた役柄を演じて生活し,その期間での人間関係や精神状態の変化を見るというもので,報酬として4000マルクが与えられるものである.
その実験前夜にタレクは,車でタクシーに突っ込んできた,父親の葬式の帰りだという女性ドラ(マレン・エッゲルト)と一夜を共にした.
そして実験当日,看守役と囚人役がランダムに選ばれた.看守役には,「暴力の行使の禁止」と「アルコールの持ち込みの禁止」という2つのみの条件が与えられ,囚人役には,6つのルールが与えられた(Table1.6つのルール 参照).
Table1.6つのルール ルール1:囚人はお互いに番号で呼び合わなくてはならない。 ルール2:囚人は看守に対して敬語を使わなくてはならない。 ルール3:囚人は消灯後、会話を一切交わしてはならない。 ルール4:囚人は食事を残してはならない。 ルール5:囚人は看守の全ての指示に従わなくてはならない。 ルール6:ルール違反を犯した場合、囚人には罰が与えられる。
お遊び気分で始まった実験であったが,囚人は看守に逆らうことを,看守は囚人を従わせる事を楽しみ始める者も現れ始めた.その日の夕食で,牛乳アレルギーである囚人番号82シュッテに,看守のエッカートは規則(ルール4)を守るよう強要した.緊張感に包まれる中,シュッテの牛乳を代わりにタレクが飲み干した.その夜,エッカートは看守の仲間から対処が甘いと指摘され,タレクと叩き起こし,罰として腕立て伏せを命じた.タレクが罰を拒否すると,同じ監房2人にも連帯責任として腕立て伏せを強要したため,囚人3人はそろって罰を受けることになった.看守エッカートは罰に応じた彼らを見て,囚人達は看守の言いなりになったと笑みを浮かべ,他の看守の仲間からも賞...
勉強になりました。