法も道徳もともに社会生活において我々の行為を規律する客観的な社会規範である。この二つの社会規範を論及すべき意義は何か。それは、法と道徳の問題は法の本質に関わる問題であるからだ。本問を論ずることで法の本質の理解に繋がるといえるのである。以下、歴史的考察を踏まえ論及する。 かつて、規範としての法と道徳との間にはローマ法を除いて明確な区別はなく、実定法以外の身分的な非法律的要素によって人々の行動が拘束されることがあった。西欧近代社会は封建的な社会的・政治的・法律的諸制度を克服するために、人の支配から法の支配への移行を確立したのであった。そして、法実証主義によって法と道徳は峻別されたのである。しかし、資本主義経済の高度の発展による富の偏在などの諸問題が発生し、その解決のためには法と道徳を無関係な規範として切り離すわけにはいかなくなった。そこであらためて、法の本質に関する問題が議論されるようになり、法律学上、法と道徳の関係を取り上げねばならなくなったのである。 前述のように、法と道徳は社会規範である。両者は密接な関係があるとはいえ、決して同一のものではない。これに関し、次の学説がある。まず...