『同一性の命題』について
『同一性の命題』について
ハイデガーの「同一性の命題」
ハイデガーに、「同一性の命題」という小論がある。
まずハイデガーは、同一性の命題がA=Aという形式において表わされ、一般に最上位の思考法則と見なされていることを指摘したうえで、この命題を手がかりにしながら、同一性という問題を考察しようとするのである。
同一性の命題A=Aという形式は、一体何を表現しようとしているのか。この形式は、AとAとが相等しいことを表わしているのであり、等しいということには少なくとも二つのものが属していなければならない。一つのAが一つの他のAと等しいということである。しかし、同一性の命題は、そのようなことを言い表わそうとしているのではなく、同一性の形式が本来述べようとしているのは、「AはAである」ということである。この「ある」によってこの命題は、各々の存在それ自らがそれ自らと同じであるということを言い表わしているのである。同一性の命題は、存在するものの存在...