義理と人情のテーマについては、源了円氏の「義理と人情―日本的心情の一考察」など、学者による多くの文献があり、これまでの文献を検討するとともに、特に文学作品に反映した義理と人情について意欲的な考察がすすめられている。しかしここでは文献的考察は抜きにして、心理学的観点から、この問題について次の二つの点を考えていきたいと思う。その一つは、人情という言葉の意味するものは甘えに密接に関係があるという点である。いま一つは、人情と義理は単に対立概念ではなく、二つの間に有機的な関係が存すると考えられることである。
人情とは単に人間の感情一般を指すのではない。そのことは、日本人独特の言い回しである、「外国人には人情がわからない」とか、その反対に「外国人にも人情がある」というしばしばなされるいい方に現れているといえる。
すなわち日本人は人情という一般的な名称を用いてはいるが、それが特に日本人に馴染み深い感情の系列を指す結果となっていることを知らないうちにわきまえているものと思われる。このことは、人間関係を現わす多くの日本語がすべて先にのべたように、甘えの心理を含んでいることを考えれば、当然のことと思わ...