『コースの定理の分析』
企業Xが生産活動によって河川を汚染し、漁民Yの生産活動に打撃を与えている、という事例があるとしよう。こうした事例を耳にすると、多くの人々はまず、「損失の原因はXが作ったのだから、加害者はXで、被害者はYだ、だからYが勝訴すべきである」という視点から、事例を眺めがちではないか。しかし、全く別の角度から、この事例に対処する方策がある。それが、ロナルド・コースが提唱した「コースの定理」である。本稿ではコースの定理について、その論理の特徴・特殊性・及び有効性について、具体例とともに考察していきたい。
まずはじめに、コースが提唱した取引費用の概念を説明する。取引費用とは、市場で売り手と買い手が出会うことに関連した費用のことだ。日常の買い物から結婚相手を探す時まで、ほとんどの取引について生じる。取引費用の存在は、取引から得られるはずの利益を減少させる。よって取引費用が大きすぎたり不安定になると、取引自体は起こらない。取引費用が大きい例としては、当事者の数が多い場合や、市場の供給側にも需要側にも独占力が存在する場合(労使間の団体交渉や離婚交渉中の夫婦など)が挙げられる。
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