在監者の人権制約は憲法上、いかなる根拠に基づくか。思うに、憲法は在監関係の存在とその自律性を憲法秩序の構成要素として認めている(憲法18 条、31 条、34 条)。そうであるならば、憲法はかかる目的を達成するためこれを根拠として人権制約を認めていると考えられる。したがって、在監者の人権制約の根拠は、在監関係の存在とその自律性である。
それでは、かかる在監者に対してどの程度までの人権制約が認められるか。思うに、人権制約は必要最小限度であるべきであるから、在監目的達成のための必要最小限度の制約が認められると解する。例えば、在監法の適用によって、表現の自由が制限された場合についてみると、表現の自由は個人の自己実現の価値(個人が言論活動を通じて自己の人権を発展させるという、個人的な価値)や自己統治の価値(言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという、民主政に資する社会的な価値)を有する重要な権利であるから、在監目的を達成するうえで、より制限的でない他に選びうる手段があるか否かによって、合憲性が判断されると考える。したがって、この基準を満たす限度で人権制約が認められると解される。
一.在監者の人権・未決拘禁者の新聞閲読の自由の制限/「よど号ハイジャッ
ク記事抹消事件」(最大判昭和 58 年・6 月 22 日)
1.事実の概要
原告(控訴人・上告人)らは、国際反戦デー闘争、佐藤首相訪米阻止闘争に参加し、
凶器準備集合罪等で起訴され東京拘置所に勾留、収容されていた。原告らは私費で読売
新聞を定期購読してところ、たまたま発生した日航機「よど号」ハイジャック事件に関
する新聞記事を拘置所長が全面的に墨で抹消して配布したので、その抹消処分は「知る
権利」を侵害したとして処分の根拠となった監獄法 31 条 2 項等は違憲であるかが争われ
た。
第一審は、本件記事の閲読が許された場合には、公安事件関係の在監者に影響を与え、
拘置所内の秩序維持に困難を来す蓋然性が相当程度存していたから、拘置所長が原告ら
の新聞閲読の権利を記事抹消により一時的に制限したことは必要かつ合理的な範囲に属
し裁量権の範囲の逸脱又は濫用はないと判示し、請求を棄却した。
原審も、第一審判決を全面的に肯定し、控訴を棄却したため、原告らが上告した。
2.判旨
最高裁は、未決拘禁者には、逃走・罪証隠...