~公務の執行を妨害する罪~
【保護法益】
公務すなわち国または地方公共団体の作用。ただし、強制執行妨害罪においては、一次的には債権者の利益にある(判例)。
★ 要件
① 客体:「公務員」である。
② 行為:「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加える」ことである。
公務執行妨害罪の対象となる「職務」は、適法なものでなければならない(職務の適法性)。
③ 結果:本罪は暴行・脅迫を加える行為をもって足り、暴行・脅迫の結果として公務員の職務執行が現実に害されたことを要しない(抽象的危険犯)。
④ 因果関係
⑤ 故意:職務の適法性の錯誤をどう扱うのかについては、争いがある。
⑥ 罪数・他罪との関係:公務執行妨害罪が成立すると暴行・脅迫罪は成立しない。業務妨害罪との関係については争いがある。
一 職務の適法性
1 「職務」は適法なものであることが必要であり、職務の「適法性」は書かれざる構成要件要素(規範的構成要件要素)である(通説)。違法な公務員の公務を保護するとなれば公務員そのものの身分ないし地位を保護する結果となり本罪の趣旨に反するし、違法な公務員の行為はおよそ職務の執行とはいえない以上、それに対する妨害行為は、そもそも公務執行妨害の構成要件に該当しないからである。
2 適法性の要件
①その行為が公務員の一般的・抽象的職務権限に属すること。
②その職務行為を行う具体的職務権限を有すること。
③職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式の履践。
3 適法性の判断基準・時期
(論点)
警察官乙は、深夜警ら中に、家屋の二階の窓から入ろうとしている甲を発見し、甲を泥棒と考え現行犯逮捕した。他方、甲は自宅の玄関の鍵をなくしてしまったため、二階の窓から自宅に入ろうとしていただけであったため、逮捕されるいわれはないと考えたので、乙に暴行を働いた。
甲の行為は公務執行妨害罪の客観的構成要件をみたすか。乙の行為は事後的客観的にみれば不適法とも思えるので、「職務」の適法性の判断基準・時期が問題となる。
(論証)
まず「職務」の適法性は構成要件要素であると考えられる。人権保障の観点から、違法な公務員の行為はおよそ「職務」に該当しないと考えるべきである。①その行為が公務員の一般的・抽象的職務権限に属すること②その職務行為を行う具体的職務権限を有すること③職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式の履践という三つの要件をみたす必要がある。
そして、職務の適法性の判断は、裁判所が法令を解釈して客観的に判断すべきである。
法律をよく知らない一般人や当該公務員自身を基準としたのでは、事実上ほとんどの場合に適法性を認めることになってしまい、人権保障を全うできない。
では、裁判所はどの時点を基準として適法性を判断すべきか。この点、裁判時に立って事後的に純粋に客観的に判断すべき(純客観説)とする説もある。
しかし、刑事訴訟法上適正な手続を踏み、行為時に適法だと思われる行為はひとまず保護することが、公務を保護しようとした95条の趣旨に適う。にもかかわらず、事後的判断によって違法とすることは、法秩序の統一性を破り、公務の保護を不当に軽視することになる。
よって、個人の人権保障と公務の保護の妥当な調和の見地から、行為当時の具体的事情に即して裁判所が客観的に判断すべき(行為時標準説)。
ここで、乙が甲を住居侵入罪(130)の現行犯として逮捕しようとするのは、警ら中の警察官としての抽象的・具体的職務権限内の行為であり、また現行犯逮捕は逮捕状がなくても行い得
~公務の執行を妨害する罪~
【保護法益】
公務すなわち国または地方公共団体の作用。ただし、強制執行妨害罪においては、一次的には債権者の利益にある(判例)。
★ 要件
① 客体:「公務員」である。
② 行為:「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加える」ことである。
公務執行妨害罪の対象となる「職務」は、適法なものでなければならない(職務の適法性)。
③ 結果:本罪は暴行・脅迫を加える行為をもって足り、暴行・脅迫の結果として公務員の職務執行が現実に害されたことを要しない(抽象的危険犯)。
④ 因果関係
⑤ 故意:職務の適法性の錯誤をどう扱うのかについては、争いがある。
⑥ 罪数・他罪との関係:公務執行妨害罪が成立すると暴行・脅迫罪は成立しない。業務妨害罪との関係については争いがある。
一 職務の適法性
1 「職務」は適法なものであることが必要であり、職務の「適法性」は書かれざる構成要件要素(規範的構成要件要素)である(通説)。違法な公務員の公務を保護するとなれば公務員そのものの身分ないし地位を保護する結果となり本罪の趣旨に反するし、違法な公務員の行為はおよそ職...