自己の所有する情報を公開法廷の場に提出することは、所持者にとって何らかの不利益を生じることが多い。しかし、司法による正義の実現に協力することは、国民が裁判を受ける権利を実質的に保障するために不可欠の義務であり、法が特に提供を免除する場合を除いて、国民にはこの義務の履行が求められる。
文書については、一般的提出義務の例外として、その内容に関する証言拒絶権事由該当性を根拠とする例外の他に、自己使用文書性が除外事由として設けられるに至ったが、その範囲は今後文書の記載内容、訴訟の目的、及び証拠としての重要性などの要素を総合的に考慮し、個別の解釈に委ねることになるであろう。
その他今後の解釈、運用を待たねばならない部分は多々あるが、文書提出命令の申立ては、争点整理手続制度が整備されたことと関連して、また提出義務の範囲が広まったことと相まって、今後の利用が増加することが予想される。
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文書提出命令について
一.旧法と新法の比較
1.文書提出義務について
①旧法
(1)原則
企業・私人が所持する文書については原則として提出義務はない。
(2)例外
(a)引用文書(旧法312条1号)
文書を所持する当事者が訴訟において引用した文書のこと。
(b)引渡・閲覧文書(同条2号)
挙証者(ある事実を立証しようとする訴訟当事者)が、文書の所持者
に対し引渡または閲覧請求権を有する文書のこと。
(c)利益文書(同条3号前段)
挙証者の利益のために作成された文書。
Ex.挙証者を受遺者とする遺言書、挙証者のためにする契約の契約
書、代理委任状、
領収書、身分証明書など。
(d)法律関係文書(同条3号後段)
挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書。
Ex. 契約書、契約申込書、契約締結の過程でやりとりされた手紙、
挙証者と所持者と
の間の紛争について作成された判決の正本など。
(旧民事訴訟法)
第三百十二条 左ノ場合ニ於テハ文書ノ所持者ハ其ノ提出ヲ拒ムコトヲ
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得ス
一 当事者カ訴訟ニ於テ引用シタル文...