私は、教育に携わる者として、近年の教育産業を取り巻く環境を考えるうえで、人々からの興味関心が高く、一方で社会的マイナスイメージも依然として拭い切れぬ立場にある「塾」というものについて調べてみたいと感じた。昨今の教育問題を考えてみても、学校教育に求められる課題は増大し続けており、その補助的手段となるべき塾産業の役割は無視できない存在になっている。国家的教育社会のなかにおいて、塾産業は、教育を金儲けに使おうとしていると長年批判されてきたが、もはや両者は協力体制に転換しつつある。本稿ではその中でも、近年では、かつての主流の指導形式であった集団指導に取って代わりつつある、「個別指導型の学習塾」に焦点を当てたうえで、学校と塾との在り方の比較も行ってみようと考えた。
今回、個別指導型の塾を調査対象とするにあたってご協力頂いたのは、現在京都市内に1店舗を構えて小中学生を主な対象として進学指導を行っている「K塾(仮称)」である。私自身、現在この塾でアルバイトとして仕事に関わらせて頂いているため、インタビューを行い易いと考えたのも一つの動機であった。本稿では、まず2節で塾業界全体を含めた個別指導塾の現状について概要をまとめ、3節では、この「K塾」の塾長である、A氏(57)に伺った話を基に、その仕事内容をまとめたうえで、4節では、「生徒の二極化・要求の個別化」への対応や、指導上での刺激の与え方、学生講師陣の限界点などといった現在の塾業界の課題、個別指導の塾における「教育の使命」についてインタビューから見えてきたことについて考えてみたい。そこから、新教育産業として注目される個別指導塾の今後の在り方が見えてくるのではなかろうか。最後に5節では、塾産業に挑もうとする学生に対してのA氏の期待や、学校と塾とは今後どう関わっていくべきなのかについてまとめたい。
1,はじめに
私は、教育に携わる者として、近年の教育産業を取り巻く環境を考えるうえで、人々からの興味関心が高く、一方で社会的マイナスイメージも依然として拭い切れぬ立場にある「塾」というものについて調べてみたいと感じた。昨今の教育問題を考えてみても、学校教育に求められる課題は増大し続けており、その補助的手段となるべき塾産業の役割は無視できない存在になっている。国家的教育社会のなかにおいて、塾産業は、教育を金儲けに使おうとしていると長年批判されてきたが、もはや両者は協力体制に転換しつつある。本稿ではその中でも、近年では、かつての主流の指導形式であった集団指導に取って代わりつつある、「個別指導型の学習塾」に焦点を当てたうえで、学校と塾との在り方の比較も行ってみようと考えた。
今回、個別指導型の塾を調査対象とするにあたってご協力頂いたのは、現在京都市内に1店舗を構えて小中学生を主な対象として進学指導を行っている「K塾(仮称)」である。私自身、現在この塾でアルバイトとして仕事に関わらせて頂いているため、インタビューを行い易いと考えたのも一つの動機であった。本稿では、まず2節で塾業界全体を含め...