[現地での調査活動]
今回の滞在では前半はほとんど協会の手伝いで草方格作りや協力隊が来たときの植樹を行っていたが、後半は協力隊が来ない日等の合間に自分なりの調査を行った。調査の内容は以下のとおりである。
右に写真34と35がある。ここは草月の森と呼ばれる場所であり、今年の協力隊植林地の近くである。この二枚の写真に写っている木は全く生長量が異なっている。しかしこれら二つの場所は共に三年前に植林をしたものであり、場所も100mほどしか離れていない。写真35の奥の方に見える、大きな林の部分が写真34である。胸高直径を計って比較してみると南側は5~13cmだったのに比べ北側は1.5~5cmだった。この生長量の差はなにかと考えていった。
最初、この辺りは石灰分つまりCaが多い(<クブチ砂漠の特徴>参照)ので何らかの作用で北側のCa濃度が高くなり、その為Caで生育障害を起こしているのではないかと考えた。それで偶然にも現地に土壌分析を行う器材(富士平工業(株)のDr. soil土壌養分検定器)があったので、それを借りて土壌の化学分析を行った。Dr. Soilの概略は、土壌を2cc採り、それを抽出液(恐らく主成分は酢酸であると思われる)に入れ抽出、ろ過を行い、その液を試料としてそれぞれの元素に対応した指示薬を入れ、発色または白濁させ、それを比色表、比濁表と比べて濃度の決定をするものである。そのために正確な濃度は分からないが大体の目安となる。以下にその結果を示す。
表6 土壌の分析結果
試験区名
試料名 pH 置換性mg/100g 可給体 NaCl
mg/100g 窒素
mg/100g 可給体
mg/100g H20 KCl Ca Mg K P NH3 NO3 Fe Mn 南側(生育良)
北側(生育悪) 7.5
7.5 400
1200 52
50 35
50 9
10 6
5 同じ
同じ 少なめ
多め 南側①15~20cm
北側①15~20cm 7.5
7.5 7.5
7.5 200
500 50
25 50
50 20
10 0.005
0.010 少なめ
多め 南側①55~65cm
北側①55~65cm 7.5
7.5 1000
200 80
600 70
70 5
25 少なめ
多め 3
5 1以下
1以下 同じ
同じ 多め
少なめ
Fe,Mnの比色表が無く、濃度の高低しか分からなかったため、上記の表示になっている。以下に各項目、元素の説明を書く。15~25cm、55~65cmは土壌試料を採取した場所の深さ。
pH(H2O):純水で振盪し、pHを測ったもの
pH(KCl):K+で土壌中のH+を置換してpHを測ったもの。
Caの生理作用:生体膜の構造と機能の維持。体内で生じた有機酸の中和。植物体内での移動性は乏しい
Mgの生理作用:葉緑体のクロロフィルに含まれる。リン酸化反応の補助。タンパク合成酵素の補助。
Kの生理作用:原形質構造の維持。PH、浸透圧の調節。デンプン合成系やホスホキナーゼ系の諸酵素の働きを助ける。
NaClの生理作用:Clは光化学系Ⅱにおける酸素発生に関与している。Naも有用元素としての効果はあるが、その濃度が高くなると生育障害を起こさせる。
Feの生理作用:伝氏伝達や酸化還元反応の触媒を行う。中性またはアルカリ性になるとFeは溶けにくくなりFe欠乏を引き起こしやすい。
Mnの生理作用:光化学系Ⅱの反応中心でクロロフィルに電子を供給し、水から電子を奪い酸素を発生させる。活性酸素を消去する酵素の
[現地での調査活動]
今回の滞在では前半はほとんど協会の手伝いで草方格作りや協力隊が来たときの植樹を行っていたが、後半は協力隊が来ない日等の合間に自分なりの調査を行った。調査の内容は以下のとおりである。
右に写真34と35がある。ここは草月の森と呼ばれる場所であり、今年の協力隊植林地の近くである。この二枚の写真に写っている木は全く生長量が異なっている。しかしこれら二つの場所は共に三年前に植林をしたものであり、場所も100mほどしか離れていない。写真35の奥の方に見える、大きな林の部分が写真34である。胸高直径を計って比較してみると南側は5~13cmだったのに比べ北側は1.5~5cmだった。この生長量の差はなにかと考えていった。
最初、この辺りは石灰分つまりCaが多い(<クブチ砂漠の特徴>参照)ので何らかの作用で北側のCa濃度が高くなり、その為Caで生育障害を起こしているのではないかと考えた。それで偶然にも現地に土壌分析を行う器材(富士平工業(株)のDr. soil土壌養分検定器)があったので、それを借りて土壌の化学分析を行った。Dr. Soilの概略は、土壌を2cc採り、それを抽出液(恐らく主成分は酢酸であると思われる)に入れ抽出、ろ過を行い、その液を試料としてそれぞれの元素に対応した指示薬を入れ、発色または白濁させ、それを比色表、比濁表と比べて濃度の決定をするものである。そのために正確な濃度は分からないが大体の目安となる。以下にその結果を示す。
表6 土壌の分析結果
試験区名
試料名 pH 置換性mg/100g 可給体 NaCl
mg/100g 窒素
mg/100g 可給体
mg/100g H20 KCl Ca Mg K P NH3 NO3 Fe Mn 南側(生育良)
北側(生育悪) 7.5
7.5 400
1200 52
50 35
50 9
10 6
5 同じ
同じ 少なめ
多め 南側①15~20cm
北側①15~20cm 7.5
7.5 7.5
7.5 200
500 50
25 50
50 20
10 0.005
0.010 少なめ
多め 南側①55~65cm
北側①55~65cm 7.5
7.5 1000
200 80
600 70
70 5
25 少なめ
多め 3
5 1以下
1以下 同じ
同じ 多め
少なめ
Fe,Mnの比色表が無く、濃度の高低しか分からなかったため、上記の表示になっている。以下に各項目、元素の説明を書く。15~25cm、55~65cmは土壌試料を採取した場所の深さ。
pH(H2O):純水で振盪し、pHを測ったもの
pH(KCl):K+で土壌中のH+を置換してpHを測ったもの。
Caの生理作用:生体膜の構造と機能の維持。体内で生じた有機酸の中和。植物体内での移動性は乏しい
Mgの生理作用:葉緑体のクロロフィルに含まれる。リン酸化反応の補助。タンパク合成酵素の補助。
Kの生理作用:原形質構造の維持。PH、浸透圧の調節。デンプン合成系やホスホキナーゼ系の諸酵素の働きを助ける。
NaClの生理作用:Clは光化学系Ⅱにおける酸素発生に関与している。Naも有用元素としての効果はあるが、その濃度が高くなると生育障害を起こさせる。
Feの生理作用:伝氏伝達や酸化還元反応の触媒を行う。中性またはアルカリ性になるとFeは溶けにくくなりFe欠乏を引き起こしやすい。
Mnの生理作用:光化学系Ⅱの反応中心でクロロフィルに電子を供給し、水から電子を奪い酸素を発生させる。活性酸素を消去する酵素のひとつであるSODに含まれる。
土壌の化学分析はカルシウム濃度の差を想定して行っていたが他の元素についても一応行った。最初の二組の土壌分析ではCaの濃度差がよそう通り生長の悪い北側の森の土が南側のものより高かったが、深さ60cmではそれが逆転してしまった。そこでさらに草月の森の他の場所で北側2地点、南側2地点でそれぞれ深さ15~25cm、55~65cmの土壌を採取した。その分析結果を以下に示す。また表6の土壌分析結果①であまり濃度差がないものは省略した。
表7 土壌分析結果
試験区名
試料名 置換性mg/100g 可給体mg/100g Ca Mg K P Mn 南側②15~25cm
北側②15~25cm 100
400 120
40 50
35 35
5 少なめ
多め 南側③15~25cm
北側③15~25cm 200
400 300
50 50
50 20
10 多め
少なめ 南側②55~65cm
北側②55~65cm 1200
400 100
900 70
70 5
35 多め
少なめ 南側③55~65cm
北側③55~65cm 1200
600 50
900 35
100 5
25 多め
少なめ 南側①~③平均値
15~25cm 167 157 45 25 少なめ 北側①~③平均値
15~25cm 433 38 45 8 多め 南側①~③平均値
55~65cm 1133 77 58 5 多め 北側①~③平均値
55~65cm 400 800 80 28.3 少なめ 砂丘上部
砂丘下部 800
3000 100
400 50
70 5
5 多め
少なめ
(土壌採取時の記録)
南側①:1m掘ったが土壌の色はほとんど変わらず、茶色の土だった。黒色の有機物らしきものが若干混ざっていた。
南側②:50cmあたりからグライ層らしき層が出現。グライ層には鉄、マンガンの斑紋が認められた。しかし色は茶色と灰色の中間のような色。
南側③:25cmぐらいからグライ層らしきもの出現。それと共に根が密集している層が25cmぐらい続き、有機物の多い黒色の層が1cmあった。それから下は鉄、マンガンの斑紋が見られた。
北側①:50cmからグライ層が出現。鉄、マンガンの斑紋が見られる。色は灰色に近い。
北側②:40cmからグライ層。
北側③:25cmからグライ層。
砂丘の上部:写真25の場所で採取した。砂丘の表面の砂。
砂丘の下部:写真25の場所で採取した。カルシウムの集積を起こしている窪地のそばの砂丘。下部は写真でも見られるようにはっきりと色が分かれ、灰色のグライ層になっている。窪地に近づくにつれて白っぽくなっていた。採取したのは灰色の濃いグライ土。
分析の結果は表7のようになった。結果は当初予想していたカルシウムの濃度障害がでているという予想とは異なり、むしろ60cmの深さの土では南側の方がカルシウム濃度は高い。塩基類の濃度は深さによって全く違い、これらの分析値では北側と南側の生育量の差は説明できない。
それではどの様な要因が生育量の差を生み出しているのか。それを探るために現地職員の人に草月の森の植林地の状況を聞いてみると新たに次の事がわかった。
草月の森での植林は他の所とは少しやり方が違っていた。普通、植林(協力隊を含めて)は地面に60cmの穴を掘り、そこに苗木を入れて埋め戻して行く(図8参照)という方法を採っている。しかし草月の森の場合は一度ブルドーザーで30cmの溝を掘り、その溝に更に30cmの穴を掘って苗木を入れ、30cm埋め戻す(図9参照)という方法をとっている。溝を掘るのは灌漑をしやすくするためである。また溝を埋め戻さないのは溝の底に植林されていると土壌水分が保たれ易く根が浅くても活着できるからである。この工法は中国の乾燥地では良く行われているようである。恩格貝ではブルドーザーを使い分けている訳ではなくブルドーザーがあった時は使うが、無い時は使わないという風になっている。
情報提供先→ http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2030/report.html