宇宙の隣人 がか座β星
在りし日の太陽系の姿を見る
私たちの住む太陽系は,どのようにして生まれたのだろうか。ほかにも太陽系に似た惑星を持つ星はあるのだろうか。 この天文学の大テーマに挑むには,星の周りで惑星が生まれるところを見ればいい。しかし言うは易し,行うは難し。惑星は,星が生まれるときに周りにできるガスと塵の円盤の中で生まれる。が,円盤は何しろ小さい。その中でも惑星がいる部分はせいぜい円盤の内側10分の1のところだけだ。だからよっぽど視力のいい望遠鏡を使わないと,惑星そのものは見ることができない。 そういうわけで,惑星そのものは今の技術ではまだ見ることができないから,天文学者はまずは円盤を調べることから始めた。図1は,円盤を持つ星としておそらく最も有名な,がか座β星の画像だ。中心の星はすでに完成してしまっているのにまだ星の周りに円盤を持つ面白い星で,このような星は「ベガ型星」と呼ばれる。1984年に赤外線天文衛星IRASが,ごくありふれた星だと思われていたベガ(織姫星)が思っていたより赤外線でずっと明るいことを発見したのが最初だったので,こう呼ばれる。がか座β星もそんな星の一つとして見つかった。そして,絵を撮ってみたら,図1のように真横から見た円盤の姿が写ったのだ。このあまりに印象的な姿は天文学者をとりこにし,新しい装置がつくられるたびに,こぞってこの星を見てきた。図1ではしかし,まさに惑星ができるような円盤の内側部分は,コロナグラフという目隠しに覆われて見えていない。この目隠しを何とか外す方法はないものか?
図1 がか座β星の周りにある塵円盤の像。中心で丸くのっぺり広がっているように見えるのは,コロナグラフの覆いで隠された部分。 (Smith B.A. & Terrile R.J., Science 226, 1421, 1984)
それにうってつけなのが,波長10ミクロンほどの中間赤外線である。この波長では星を隠すコロナグラフが要らないので,惑星ができる場所をダイレクトに見ることができる。さらに良いことに,中間赤外線は塵の種類や大きさを調べるのが得意なので,円盤のような固体が主役の場所を調べるのに向いている。 そこで筆者らは昨冬に国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡の中間赤外線撮像分光装置COMICSを使って,がか座β星の塵の様子を詳しく調べた。すると,塵の種類によって円盤の中での居場所がまったく違うことが分かった。特に面白いのは,ある種のとても細かな塵は3重のリングになって光っていたことだ。これはまったく予期せぬことだった。がか座β星の場合,こんな細かな塵は,あっという間に吹き飛ばされてしまう。だから,細かな塵がたくさんある場所では,今も何かから塵が出てき続けているはずだ。筆者らは,ここに「微惑星」と呼ばれる小天体が集まっているのだと考えた。ちょうど太陽系の小惑星帯を思い浮かべると分かりやすい。しかも,がか座β星の場合,それが3重もある。図2はその想像図である。この微惑星のリングの中では,微惑星どうしが互いにしょっちゅうぶつかり合っては砕けて細かい塵をばらまいている。太陽系もかつて若かりしころには,同じような姿をしていたのかもしれない。
図2 微惑星帯の想像図。 図のように3重のリング状に微惑星がたくさんある「帯」があり,ぶつかっては細かい塵をばらまいている。
がか座β星は我々から63光年のところにある。これは宇宙の大きさを考えれば「お隣さん」といってもいい近さだ。しかもたぶん惑星系を持っていて,在りし日の太陽系の姿を教えてくれる。だから多くの天文学者は,この隣人に魅了されてきた。筆者もその一人だ。何しろこの隣人を見てみたいがゆえに,学生時代から10年もCOMICSの開発に参加した。そして,ようやくCOMICSという最新の装置で惑星系が生まれてくる現場をとらえることがかなった。 できることなら,お隣さんを訪ねてこの目でその姿を確かめてみたい。だけど,それはもう少し待った方がよさそうだ。なぜなら,今行くと,それこそ微惑星がしょっちゅう降ってきて,おちおち寝てもいられないだろうから。 詳細は下記URLをご参照ください。 http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2004/1007.shtml
(ISASニュース 2004年11月 No.284掲載)
資料提供先→ http://www.isas.jaxa.jp/j/column/famous/02.shtml