宇宙の巨人-かみのけ座銀河団-

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    宇宙の巨人
    かみのけ座銀河団
     この世で大きいものってなんだろう?小錦?ぞうさん?東京ドーム?太平洋?地球?太陽?あ,太陽系かな?じゃあ,この太陽系の次に大きいもの,と言ったら思い付くだろうか?それは,よく知られている天の川,すなわち私たちの銀河系である。銀河系は太陽のような星がなんと1000億個もいる巨大な星の「かたまり」なのだ。ここで,銀河系が宇宙で一番でっかいのかぁ,と納得してしまうのはまだ早い!一般的にはあまり知られていないが,宇宙には銀河が数十個から数百個も集まってたむろしている「銀河団」というものがいるのだ。しかも,これまで分かっているだけでも,宇宙には軽く1万個を超える銀河団が存在している。  さらに大きいスケールで見ると,そういった銀河団がいくつか列になって並んでいる場所と,逆に銀河団がまったくないような空間とに分けることができる。これは宇宙の大規模構造と呼ばれるもので,銀河団が集まっている部分を超銀河団と呼び,その数はまだ両手で数えられるほどしか見つかっていない。超銀河団を構成する核となる場所には巨大な銀河団が居座っているのだが,その中でもダントツで大きいのが「かみのけ座銀河団」である(図1)。この銀河団の中には約1000個もの銀河が存在する(星の数にして約100兆個,星の数ほどあるとはまさにこのことだ)。分かりやすく身長と体重で言うと,身長は小錦の100兆×10兆人分,体重は小錦の100兆×100兆×100兆人分,ということになる(小錦の身長と体重を2m,200kgとして計算)。と言われても,分かりやすいどころかまったく想像が付かないだろうが,それくらいめちゃくちゃデカい!!のだ。  しかし,そんな宇宙の巨人「かみのけ座銀河団」も,初めから大きかったわけではない。では,いったいどうやってここまで大きくなったのだろうか?世界に名の通るような巨大企業を想像してほしい。どんな大企業も,初めはせいぜい社員数人のごく小さな会社だったはずだ。それが,会社の力が強まってどんどん社員が増えて中小企業となり,次には自分より小さい企業を吸収して大企業となり,さらには同じ程度の大企業と合併して超巨大な企業となっていく。銀河団も同じである。初めは数個の銀河同士が重力で引かれて集まり,さらに重力が強まってどんどん銀河が増えると,銀河群(銀河数個の集まり)を吸収して小さな銀河団が生まれ,ついには銀河団同士が合体して超巨大銀河団になっていくのである。  企業がただの人間の集まりではなく,人々の働く意欲で満たされているように,銀河団もただの銀河の集まりではなく,銀河と銀河の間の一見何もないような空間は熱いガスで満たされている。これを銀河間ガスと呼び,巨大な銀河団ほど熱い。かみのけ座銀河団ではなんと1億度もの超高温だ。これほどの温度のガスは目に見えるような光ではなく,「X線」として輝いている(図2)。企業も,事業がうまくいかず社員の労働意欲が冷めてしまったり,新企画の発足に熱い闘志がみなぎったり,吸収合併といった大きな変化が起こると混乱したり対応にもめたりするように,銀河間ガスもその成長に応じて温度や密度分布が変わったり,一時的に乱れたりする。従って銀河間ガスの様子を調べる=X線天文衛星で観測することで,銀河団の歩んだ歴史が分かる。少し前までは,ほとんどの銀河団はもはやこれ以上は成長しない落ち着いた状態にあると考えられていたが,近年のX線観測により,ほとんどの銀河団がまだ成長し続けていることが分かってきた。超銀河団の中心にどっしりと腰を落ち着けているように見える「かみのけ座銀河団」でさえ,最近の衝突による温度ムラがあり(図3),さらに新たな吸収合併をもたくらんでいるのだ(図2)。  我々JAXAも昨年大きな合体をしたばかりだが,銀河団に見習って確実に,よりよい成長をしていきたいものである。
    図1 Digitized Sky Surveyによる可視光で見たかみのけ座銀河団。 点に見えるのは銀河で,約1000個もの銀河が集まっている。
    図2 ROSAT衛星によるX線で見たかみのけ座銀河団。 可視光では何も見えないところも広がった銀河間ガスで満たされている。 これからまさに吸収・合体すると考えられるガスの塊(右下)があった。
    図3 あすか衛星から得られた銀河間ガスの温度マップ。 最近の衝突合体の証拠となる非常に高温の領域(右上)が見つかった。
    (ISASニュース 2004年12月 No.285掲載)
    資料提供先→  http://www.isas.jaxa.jp/j/column/famous/03.shtml

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