水星磁場の源
地球磁場は核で生まれる
地球では磁石のN極が北を指すことにより方位を知ることができるが、他の惑星でも同様に磁石を使えるわけではない。地球と同じように大規模な固有磁場を持つ惑星や衛星もあれば、火星のように少なくとも現在はそのような磁場を持たない惑星もあるからである。この差異は、惑星進化の帰結である惑星内部の状態に起因している。 地球磁場を生成している場所は、日本では今年6月に公開された映画の題名そのもの「コア(核)」である。内核(固体)と外核(液体)で形成される核の主成分は金属鉄であり、電気伝導性が非常に高い。磁場中を導体が動くと起電力が生じ、電流が流れる。すると電流に伴う磁場が生じる。このように流体核の流れに伴う発電作用(ダイナモ作用)によって元の磁場が生成されれば、磁場が維持される。前述の映画では「コア停止」によって1年で磁場がなくなると設定されていたが、地球磁場の自由減衰時間は1万5000年程度であり、流体核の流れが止まってもすぐに磁場がなくなるわけではない。しかしながら、何億年もの間、磁場が維持されるためには、惑星内部でダイナモ作用が働いていなければならない。
いかに水星の核に近付くか
水星は弱いながらも固有磁場を持つことがマリナー10のフライバイで発見されたことは、9月号で紹介された。水星の半径は2440kmと小さいために、進化過程において核が冷却・固化してしまっていると考えられていた。それにもかかわらず、水星が固有磁場を持つならば、何らかの磁場の源があるはずである。過去のダイナモ作用によって生じた磁場が、残留磁気として存在しているのか? とすれば、観測された磁場を説明するために必要な磁化強度および地殻の厚さは、非常に大きくなければならない。今もダイナモ作用が働いているのか? それならば、水星内部に流体核が存在することを意味する。水星磁場の源を明らかにするためには、精密な測定によって水星磁場の空間分布および時間変化を知ることが非常に重要であり、必要不可欠である。
図1 核表面での地球磁場動径成分の分布
地球上では地球磁場の双極子成分が卓越している。しかし、核表面での磁場分布は複雑である(図1)。磁場が強い領域は南北の極ではなく、自転軸から見て内核半径のすぐ外側に位置し、そして赤道面に対して対称に近い。ダイナモの数値シミュレーションの結果によれば、地球の自転と固体内核の大きさに影響される対流セルの位置と磁場の強い領域とは相関がある(図2)。つまり、核内の状態が磁場分布に現れ、磁場分布は流体核内のダイナミクスを反映する。
図2 対流セルと磁場分布の位置関係
磁場分布を詳細に知るためには核に近付いたほうがよい。前述の映画では核まで行くことができる乗り物が登場したが、現実には不可能である。ただ、水星は相対的に核が大きいので、周回衛星による観測でも相対的に核に近い軌道での観測が可能である。高精度の磁場観測を実施するためには注意すべきことがある。衛星に搭載されるさまざまな部品・機器を源とする磁場が観測に悪影響を及ぼしては何にもならない。道のりは平坦ではないかもしれないが、未知なる水星の探査をすることにより、水星磁場の源を求め、水星の内部構造および進化過程を議論することができるようになるであろう。
(ISASニュース 2003年11月 No.272掲載)
資料提供先→ http://www.isas.jaxa.jp/j/column/inner_planet/04.shtml