1-2重さと質量

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    重さと質量
     前の話で私は運動量を定義するのに「重さ」という言葉を使った。 初めて物理を学ぶ人にとってはその方が分かり易いと思ってそうしたのだが、これは物理学では非常にまずいのだ。 なぜなら重さというのは環境によって変化してしまう量だからである。
     例えば、月の表面に行けば重力が小さいために物体の重さは地球上での 1/6 に減少する。 また、エレベータが急上昇、急降下するときには体が重くなったり軽くなったりするのを感じるだろう。 (最近はそういう不快感を感じさせないエレベータが出てきたので、これからの物理の教育上、不都合が生じることになりはしないかと心配している。)
     このように外からの影響に左右され易い量を、 物体そのものが持つ性質だと考えてしまっていいものだろうか。 このままでは重力のないところでは運動量は0だという事になってしまうが、実際にはそんなことはない。 そのような状況でも物体は「重さ的な量」を持ち続けているようなのだ。
     「重さ」に非常に似てはいるが、重力に左右されることのない量。 それを「質量」と呼ぶことにした。 前節の運動量の定義のところで m を「重さ」であると書いたが、 これを「質量」と読み替えてもらいたい。 それが運動量の正しい定義である。
     よくよく考えてみると、「重さ」というのは地球が物体を引っ張る力のことである、と解釈できそうだ。 いや、地球だと限ってしまってはだめか。 月に行けば、月が物体を引っ張る力を「重さ」と呼ぶことになるのだろうから。 「重さ」というのは物理学的には「力」を表す言葉だったのだ。
     地球の表面近くで物体を落とすと、物体は秒速 9.8 m/s2 の加速を受ける。 これを地球の「重力加速度」と呼ぶ。 先ほど求めた式によれば、質量 m に加速度をかけたものは力である。 つまり地球の重力が質量 1 Kg の物体を引っ張る力の大きさは 9.8 ニュートンであると言えるわけだ。 これが重さの正体である。
     しかしこの話を聞いたからといって神経質になる必要はない。 日常生活では重さと質量はほぼ同じ意味であり、区別なんかしなくていい。 日常では重さの単位として「グラム」を使うだろう。 それで問題ない。 ただ、物理をやっている時だけは、概念の違いに気を付けて言葉を正しく選び、間違いが混じらないように気をつけることが大切になる。 物理では質量の単位は「Kg」を使うことで統一している。
     工業系では力の単位として「kg重」(キログラムじゅう)という単位を使うことがある。 プレス機などの性能表示では「Kgf」あるいは「Kgw」と書かれている事が多い。 1 Kg の物体にかかる重力の大きさは 9.8 ニュートンではなくて 1 Kg 重だというわけだ。 この方が 9.8 をかけなくてもいいので直感的に分かり易い。 「ああ、1 Kg のおもりを持ったときに手に感じる力と同じだな」とすぐに分かる。
     しかし物理ではこの単位は使わない。 「ニュートン」という単位で統一している。 学校というのは人に知識を与えるための単なる慈善事業ではなく、産業を支える人材を育て上げて国の力を維持することが主目的であるため、こういう産業界からのニーズに応えた内容も教え込まれることになるのである。 え? 最近の中学では「kg重」を教えるのをやめたの? まぁしかし、知っておいて無駄ではなかろう。 自分がこれからやろうとしていることに関係あることもないことも色々知っていれば、それだけ幅の広い見方ができるというものだ。

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