教育福祉問題としての「不登校・登校拒否」「不就学」
1 はじめに——この問題への視点
1.1 教育福祉とは「福祉の名の下に子どもの学習・教育の権利は軽視され、教育の名において子どもの福祉は忘れさられてい」ることを、「子どもの教育と福祉の権利」が「統一的にとらえられていない」権利保障上の問題として捉えようとする概念(小川利夫・高橋正教編『教育福祉論入門』光生館)です。教護院入所児童が義務教育を受けられなかったということも典型的な問題。
1.2 教育学者として不登校児童をめぐる問題を対象にしている窪島務氏は、「登校拒否」を「学校不適応」とする見方に対して、「問題となっているのは、子どもの『学校不適応』なのではなく、まさに、学校や教師さらには社会の『子ども不適応』状態なのではないのか。その結果として、被害者としての『学校不適応』児が生まれてくると考えられないだろうか。」と問題のとらえ方の転換を説いている(「自立への長い助走−『登校拒否』」、井ノ口・近藤・窪島編『子どもに学ぶ教育学』ミネルヴァ書房、1990年、160頁)。
1.3 なお、十分な外国籍・無国籍の子どもが増えているが、このことに対しても、日本の学校教育はまったく「不適応」状態である。
2 「不登校」児童・生徒が約13万人——どう理解するか?
2.1 生涯学習政策局調査企画課「平成14年度 学校基本調査速報の結果について」平成14年8月( http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/002/020801.htm )。
* 平成13年度間の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち,「不登校」を理由とする児童生徒数は13万9千人。
* 平成13年度間の長期欠席者数は,小学校7万7千人(前年度間より8百人減少。対前年度比1.1%減),中学校14万9千人(前年度間より3千人増加。対前年度比2.1%増)の合計22万6千人(前年度間より2千人増加。対前年度比1.0%増)。
* 「不登校」を理由とする児童生徒数は,小学校2万7千人(前年度間より1百人増加。対前年度比0.5%増),中学校11万2千人(前年度間より4千人増加。対前年度比4.0%増)の合計13万9千人(前年度間より4千人増加。対前年度比3.3%増)で,30日以上の欠席者を調査し始めた平成3年度間以降過去最多。
* →上記の数字は、小中学校の在学生数の減少にもかかわらず「最多」となっていること(小学校の児童数は前年度より5万8千人減少、中学校の生徒数は前年度より12万9千人減少)や、保健室登校やフリースクールへ通うこと等を登校扱いする学校が増えているにもかかわらず、上記の数字になっていることに留意すべきである。
2.2 生涯学習政策局調査企画課「平成15年度 学校基本調査速報の結果について」
2003年8月( http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/03080801/001.htm )。
* 平成14年度間の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち,「不登校」を理由とする児童生徒数は13万1千人で初めての減少(8千人減少)。
* 平成14年度間の長期欠席者数は,小学校6万8千人(前年度間より9千人減少。対前年度比11.8%減),中学校13万6千人(前年度間より1万3千人減少。対前年度比8.5%減)の合計20万4千人(前年度間より2万2千人減少。対前年度比9.6%減)。
* 「不登校」を理由とする児童生徒数は,小学校2万6千人(前年度間より6百人減少。対前年度比2.4%減),中
教育福祉問題としての「不登校・登校拒否」「不就学」
1 はじめに——この問題への視点
1.1 教育福祉とは「福祉の名の下に子どもの学習・教育の権利は軽視され、教育の名において子どもの福祉は忘れさられてい」ることを、「子どもの教育と福祉の権利」が「統一的にとらえられていない」権利保障上の問題として捉えようとする概念(小川利夫・高橋正教編『教育福祉論入門』光生館)です。教護院入所児童が義務教育を受けられなかったということも典型的な問題。
1.2 教育学者として不登校児童をめぐる問題を対象にしている窪島務氏は、「登校拒否」を「学校不適応」とする見方に対して、「問題となっているのは、子どもの『学校不適応』なのではなく、まさに、学校や教師さらには社会の『子ども不適応』状態なのではないのか。その結果として、被害者としての『学校不適応』児が生まれてくると考えられないだろうか。」と問題のとらえ方の転換を説いている(「自立への長い助走−『登校拒否』」、井ノ口・近藤・窪島編『子どもに学ぶ教育学』ミネルヴァ書房、1990年、160頁)。
1.3 なお、十分な外国籍・無国籍の子どもが増えているが、このことに対しても、日本の学校教育はまったく「不適応」状態である。
2 「不登校」児童・生徒が約13万人——どう理解するか?
2.1 生涯学習政策局調査企画課「平成14年度 学校基本調査速報の結果について」平成14年8月( http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/002/020801.htm )。
* 平成13年度間の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち,「不登校」を理由とする児童生徒数は13万9千人。
* 平成13年度間の長期欠席者数は,小学校7万7千人(前年度間より8百人減少。対前年度比1.1%減),中学校14万9千人(前年度間より3千人増加。対前年度比2.1%増)の合計22万6千人(前年度間より2千人増加。対前年度比1.0%増)。
* 「不登校」を理由とする児童生徒数は,小学校2万7千人(前年度間より1百人増加。対前年度比0.5%増),中学校11万2千人(前年度間より4千人増加。対前年度比4.0%増)の合計13万9千人(前年度間より4千人増加。対前年度比3.3%増)で,30日以上の欠席者を調査し始めた平成3年度間以降過去最多。
* →上記の数字は、小中学校の在学生数の減少にもかかわらず「最多」となっていること(小学校の児童数は前年度より5万8千人減少、中学校の生徒数は前年度より12万9千人減少)や、保健室登校やフリースクールへ通うこと等を登校扱いする学校が増えているにもかかわらず、上記の数字になっていることに留意すべきである。
2.2 生涯学習政策局調査企画課「平成15年度 学校基本調査速報の結果について」
2003年8月( http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/03080801/001.htm )。
* 平成14年度間の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち,「不登校」を理由とする児童生徒数は13万1千人で初めての減少(8千人減少)。
* 平成14年度間の長期欠席者数は,小学校6万8千人(前年度間より9千人減少。対前年度比11.8%減),中学校13万6千人(前年度間より1万3千人減少。対前年度比8.5%減)の合計20万4千人(前年度間より2万2千人減少。対前年度比9.6%減)。
* 「不登校」を理由とする児童生徒数は,小学校2万6千人(前年度間より6百人減少。対前年度比2.4%減),中学校10万5千人(前年度間より7千人減少。対前年度比6.1%減)の合計13万1千人(前年度間より8千人減少。対前年度比5.4%減)で,30日以上の欠席者を調査し始めた平成3年度間以降初めて減少。
* →「平成3年度間以降初めて減少」とはいえ僅かな減少にとどまる。保健室登校やフリースクールへ通うこと等を登校扱いする学校が増えていることからすれば、より実態に即した調査研究が必要となってきていると思う。
2.3 教師の困難と悩み
茨城大学小島秀夫氏の調査によれば、全国小中学校教師が「過去一年の間に体験した困難」のうちもっとも困難と感じた問題は不登校問題であるといい、悩んでいる教師は全体の42%。「不登校の指導に自信がない」30%(『子ども白書2001年版』197頁)となっている。だれが教師を助ける?支える?児童相談所との連携は?
3 問題としての「不登校」「登校拒否」という言葉
3.1 二つの正反対の用例
* この言葉の使いわけについてはおおよそ二つの傾向がみられるが、まったく正反対の用例も少なく、関係者の間でも合意が得られていない。「不登校」「登校拒否」関係の著作を読むときには、この点を注意して読む必要あり。どの用例が良いのかという問題は、客観的に正しさが決まる問題ではないので深入りはしないが、本講義では、並列または次の高垣説を採用する。
* 「言葉の用い方を次のように区別しておきたい。学校へ行きたいという気持ち、行こうとする確かな意思がありながら、学校へ行こうとすると身体的・精神的に拒否的症状が現れる場合を『登校拒否』とよび、そうした登校拒否や怠学その他の事情によって学校へ行かない状態をすべてを含んで『不登校』とよぶ、と」(高垣忠一郎『登校拒 否・不登校をめぐって』青木書店、1991年、62頁)。以下、本講義では、こちらの用例ですすめる。
* 「登校拒否」の「拒否」という言葉を意図的な学校否定や学校批判を意味するものと捉えて理解し、なんらかの神経症的な症状をともなって学校に行けない状態を「不登校」と呼び、つかいわける用例。
3.2 文部省(現・文部科学省)の用例
3.2.1 文部省(文科省)は、学校の長期欠席の理由のうち、経済的理由や病気によるものを除き「心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景」を理由とすることを「不登校」とカテゴライズするようになった(1998年から)。
3.2.2 しかし、不登校という表現にこのような意味をもたせることは批判もある。一般的な語感から考えれば、「不登校」は理由は問わず欠席状態を指すものとして受け取られる可能性も高いからである。
4 子どもの育ちの問題と「不登校」・「登校拒否」・・・子どもの「他人の目」への過剰適応・「よい子」的適応
5 教育行政と児童福祉行政にまたがる問題(=教育福祉問題)として
5.1 児童虐待としての「不登校」=親が子を就学させる義務を果たさないケース
5.2 児童相談所においても、「不登校」に関する相談は増加。全国175箇所で1996年度に受け付けた「不登校相談」は16828件。
5.3 厚生(労働)省の「不登校」児童対策(柏女霊峰『現代児童福祉論 第6版』2004年、誠信書房より)
5.3.1 厚生労働省「ひきこもり等児童福祉対策事業」 「不登校」児童等を対象とした国庫補助事業。具体的には以下の3事業がある。
* ふれあいの心の友訪問援助事業 児童相談所の児童福祉司等の助言・指示のもと、子どもの兄や姉世代で児童福祉に理解や情熱をもつ大学生など(メンタルフレンドを派遣する事業
* ひきこもり等児童宿泊等指導事業 児童相談所等の指導の一環として、児童相談所(一時保護所)、児童養護施設、情緒障害児短期治療通園施設などで開催する宿泊指導・キャンプ
* ひきこもり・不登校児童福祉教育連絡会議 不登校問題に対応するための相談援助ネットワークの整備・強化を図ることを目的とした、教育・医療・福祉の各機関からなる連絡会議。
5.3.2 児童養護施設における相談体制 知事が指定した児童養護施設に心理療法担当職員を配置。家庭環境に問題を抱える不登校児童を一定期間入所措置し、家庭の 葛藤などから保護し、心理治療等を行う。
6 「情緒障害」を有する児童と「情緒障害児短期治療施設」
6.1 「児童福祉法第43条の5 情緒障害児短期治療施設は、軽度の情緒障害を有する児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、その情緒障害を治すことを目的とする施設とする。」
6.2 「情緒障害」を有する児童とは「情緒障害児短期治療施設」の入所児童とすべき児童をさす行政用語。その入所すべき児童とは「家庭、学校、近隣の人間関係の歪 みによって感情生活に支障をきたし、社会適応が困難となった児童」(中央児童福祉審議会意見具申「児童福祉に関する当面の対応策について」1977年)であるとされる。
6.3 1997年の児童福祉法「改正」によって、「情緒障害児短期治療施設」の入所児童に改訂が加えられ「おおむね12歳未満の」という限定がはずされることになった。同施設の入所児童は、全国で619人、59.1%が中学生以上であった(1997年3月現在)。法改正は、こうした実態や必要に応じたものである。
6.4 施設数は非常に少なく全国19カ所、入所児童は700人ほど(2001年4月現在)。近年は、非虐待児童の入所が半数を超えるようになってきている。長野県には県立の「諏訪湖健康学園」一カ所のみ。
7 外国籍・無国籍の「未就学」問題と教育を受ける権利
7.1 外国人の子どもの「義務教育」を受ける権利
* 学校教育法上、保護者の就学義務は課せられていない。しかし、国際人権規約の社会権規約13条が「初等教育は義務的なものとし、すべての者について無償とする」と定め、これを批准した日本では、義務教育諸学校への外国人の子どもの就学機会を保障すべきと解される。
* 外国人登録されている場合には学齢児の保護者には「就学案...