【予備試験】過失犯の起案例(業務上過失致死罪)【司法試験】

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    予備試験・司法試験
    ま と め ノ ー ト
    過失犯の起案例(業務上過失致死罪)
    【問題】
    甲は、 病院に勤務し、第 病棟の病床係を担当する看護師である。甲は、同病院
    医師 の処方箋による指示により、内科病棟入院患者に対して、ブドウ糖注射をしよ
    うとした。甲は、処置台に置いてあったヌペルカイン在中のコルベンを、容器の標示
    紙を十分確認しないまま漫然とブドウ糖注射液剤中のコルベンと即断して、注射器に
    を詰めた。そして、この注射器を同病院第 病棟に持って行き、ブドウ糖受注患
    者 の右腕静脈血管内にヌペルカイン を注射した。その結果、 は、ヌペルカ
    イン中毒によって死亡した。
    甲の罪費を論じなさい(ただし、特別法違反の点は除く)。
    1.検討すべき罪責
    本件において、看護師甲が、患者 に対する殺人罪の故意又は傷害罪の故意、暴行罪
    の故意を有していないことは明らかなので、 に対する殺人罪(刑法 条)、傷害致死
    罪(刑法 条)は成立しない。
    そこで、看護師甲が、医師 の処方箋の指示により、患者 に対して、ブドウ糖を注
    射すべきところ誤ってヌペルカインを注射した行為に、 に対する業務上過失致死罪(刑
    法 条)が成立するかを検討する。
    2.構成要件
    業務上過失致死罪の構成要件は、①「業務」、②「必要な注意を怠り」(過失犯の実
    行行為)、③「よって」(因果関係)、④「人を死傷させた」(死亡結果)、である(刑
    法 条)。
    3.「業務」性-行為者が
    ....
    一定の事務に従事する者であること
    (1)判断枠組み-刑法 条の「業務」の意義
    刑法 条の「業務」とは、①人が社会生活上の地位に基づいて、②反復継続して行う
    事務であって、③他人の生命・身体等に対して危険を及ぼす性質の事務をいう(最判昭
    ・ ・ 刑集 巻 号 頁)。
    (2)本件の検討
    本件において、甲は、①病床係を担当する看護師として 病院に勤務し、②反復継続し
    て意思の診療を補助する立場にあり、③医師の指示監督の下で静脈注射等を行っているこ
    とから、患者の生命・身体等に対して危険を及ぼす性質の事務を担当しているといえる。
    したがって、甲は
    ..
    「業務」に従事する者である。
    4.「人を死傷させた」(死亡結果)
    本件において、 はヌペルカイン中毒により死亡している。
    大塚裕史『ロースクール演習刑法〔第 版〕』(法学書院、 年) 頁参照。
    予備試験・司法試験
    ま と め ノ ー ト
    5.「必要な注意を怠り」(過失犯の実行行為)
    裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案(四訂版)』(司法協会、 年) 頁は、過失犯の成否に関
    する実務の具体的判断方法について、「① 過失犯の大半は結果犯であるから、… 一定の結果(具体的にいえば、交
    通事故やガス爆発事故による人の死亡等)が発生して、初めて過失犯の成否を考えることになる〔一定の結果の発生
    →過失犯の成否の検討〕。もちろんだれかが故意にそのような事故を引き起こしたのであれば、端的に故意犯の成否
    を検討すればよい。しかし、故意によって引き起こされたものではなさそうだ、あるいは故意を認定するだけの証拠
    が不十分であるということになれば、次に、…その結果に対する過失犯の成否を考えることになる。」「② そこで
    まず、…その結果がだれかのミスによって引き起こされたかということを考える 。このように、実務では、一般に、
    結果からさかのぼって過失の有無を検討するという思考方法をとるのが通例 である。だれのミスに基因してその結果
    が生じたのか、すなわち、その結果と因果関係のある〔を有する〕人のミスにはどのようなものがあるかを検討 して、
    一応過失行為らしきものを抽出する(結果→因果関係→過失行為の検討、〔過失行為の抽出〕)。」「③ このよう
    にしてその結果と因果関係が認められる過失行為が一応抽出されると、今度はその行為者につき、『どのようにすれ
    ば、その結果を回避することができたか。』を考える(結果回避義務の存否・内容の検討、〔結果回避措置の想
    定〕)。」「④ そして、③の検討の結果、 行為者に対し、『このような行動(結果回避措置)をとっておれば、そ
    の結果は発生しなかった。』ということが確定されると〔結果回避措置の想定・確定〕、『それでは、当時の具体的
    な状況のもとで、現実にそのような行動(結果回避措置)をとることが可能であったか。』(結果回避可能性) とい
    うこと、及び、『そもそも、行為当時、その者は、結果の発生を予見することができたのだろうか。』(結果予見可
    能性)ということにつき検討を加える〔結果予見可能性・結果回避可能性の検討〕。」「⑤ そして、これらがいず
    れも肯定されると、その行為者は、そのような結果回避義務を怠って一定の行為をしたため、構成要件的結果を発生
    させたとして、過失犯の成立が認められる〔結果回避義務の肯定→結果回避義務の違反=過失犯の実行行為の認
    定〕。」「以上のように、結果からさかのぼって過失の存否を考えるという思考過程をとると、注意義務に関しても
    結果回避義務を重視することになるのは自然の成り行きである(…過失犯に関する近時の有罪判決の『罪となるべき
    事実』においては、その大半が注意義務を結果回避義務として構成していると思われる。)。加えて、結果回避義務
    を課する論理的前提として、実務は、結果回避可能性とともに結果予見可能性を要件として考えている ものと思われ
    る。」そして、結果予見可能性を過失の要件と位置付けることについて、「予見可能性は、結果回避義務とは論理的
    な対応関係を持たないようにも見えるが、実は、過失犯の『入り口』に位置する最も基本的な要件であって、結果回
    避可能性の前提としての性質を有するものである 。行為者に結果の発生の予見が可能であるからこそ、結果の発生を
    回避すべき義務を課することができるのである。 したがって、注意義務に関し結果予見義務と結果回避義務のいずれ
    を重視するかにかかわらず、予見可能性は当然に必要とされるべき要件なのである 。」と説明している。
    大塚裕史『過失犯論』法学セミナー 号(日本評論社、 年) 頁は、実務における過失認定の手順とし
    て、「裁判実務において過失の有無をどのような手順で認定しているのであろうか。〔 〕まず、死傷結果が発生し
    ている事案では、どのような措置をとれば結果が回避できたのかを考える(結果回避措置の想定)。当該事案におい
    て結果の回避が可能となる措置が複数存在する場合は、その中で行為者にとって最も負担の小さいものを想定する。
    例えば、自動車事故の事例で、減速措置と停車措置のいずれでも結果の回避が可能な場合には、負担が小さいのは減
    速措置であるから、想定される結果回避措置は減速措置となる。〔 〕次に、想定された結果回避措置を法的に義務
    づけることができるかを検討する。〔なぜなら、〕措置が義務にまで昇格したとき、それは結果回避義務となる〔か
    らである〕。それでは、結果回避義務が認められるためには何が必要であろうか。第 に、当該行為者が結果回避義
    務を負うべき立場にあることが必要である(義務主体性)。そもそも結果回避義務を負うべき立場にない者にそのよ
    うな義務を負担させることはできないからである。第 に、結果の予見可能性が必要である〔結果予見可能性〕。
    なぜなら、義務は可能を前提とするので、結果が予見できない者に結果回避措置を義務づけることはできないからで
    ある。第 に、結果が予見可能であっても、結果の回避可能性が認められなければ結果回避義務は認められない〔結
    果回避可能性〕。なぜなら、結果を回避することができない者に結果回避措置を義務づけることはできないからであ
    る。こうして、予見可能性と結果回避可能性が認められた場合には、原則として
    .....
    、結果回避義務は肯定される〔結果
    回避義務の肯定〕。第 に、原則として結果回避義務が認められる場合であっても、信頼の原則が適用される場合に
    は、例外的に
    ....
    結果回避義務が否定される。以上の検討の結果、結果回避義務が肯定され、行為者がその義務に違反し
    ....


    といえる場合に、当該行為は過失犯の実行行為と評価される〔結果回避義務の違反=過失犯の実行行為の認定=
    『必要な注意を怠り』の要件充足〕。結果回避義務が認められると過失犯が成立すると思いがちであるが、結果回避
    義務が存在してもその義務に違反した事実
    ...........
    がなければ行為者の行為は実行行為とはいえないことに注意する必要があ
    る。こうして、結果回避義務違反が認定されると、条文にいう『必要な注意を怠り』という要件を満たしたことにな
    る。」と説明している。
    亀井源太郎ほか『刑法Ⅰ 総論 第 版』(日本評論社、 年) 頁は、過失犯の要件について、「犯罪体
    系論上の過失の位置づけや要件の検討順序などの細部については争いがあるものの、現在の多くの見解は、過失の要
    件は、①予見可能性と、②(予見可能性の存在を前提とした)結果回避義務違反であるとする。そして、結果回避義
    務に違反する行為(作為または不作為。)が、過失の実行行為である。故意犯の場合と同様、実行行為と結果との間
    には、因果関係が必要である。刑法上の因果関係とは、実行行為の危険が結果に現実化したことをいうから、結果回
    避義務違反の危険が結果に実現したという関係がなければならない。」と説明している。
    亀井源太郎ほか『刑法Ⅰ 総論 第 版』(日本評論社、 年) 頁は、実務における過失認定の思考順序
    として、「実務における過失犯の要件の確認の...

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