2022年度までのレポート課題です。
日本近世文学における井原西鶴『好色一代男』の画期性とその時代背景について論じています。
一.概要
井原西鶴の功績として、大まかに次の四つを挙げる。
・「浮世草子」という新しい文学ジャンルの先駆けになったこと。
・当時の大坂出版業界発展の火付け役となったこと。
・前時代の文学の中心的要素であった「雅」と、町人の価値観である「俗」を織り交ぜた作品を生み出したこと。
・好色物に留まらず、多彩な文学作品を生み出したこと。
これらの活躍の背景には、経済発展に伴う町人の台頭が深く関連している。
二.時代背景
まず、西鶴の作品について論じる前に当時
の社会環境を確認する。
寛文六年(一六六六)、『遠近集』という句集に西鶴作の俳諧が三句収録された。これを西鶴の文学活動の端緒とすると、その活動期間は17世紀後半に位置するといえる。この時期、日本は大坂の町人を主体とする元禄文化の直中にあった。大坂の陣の終結により平和が訪れ、経済活動が活発になる時期である。一般の市民層にも経済的余裕が生まれ、浮世草子や浄瑠璃、俳諧に代表される文芸や浮世絵などの娯楽が浸透し始める。日用の知識や作法を収めた『家内重宝記』や大坂の商工業を案内する『難波雀』といった地誌・重宝記などの書物も出版され、...