太宰治の『清貧譚』には『聊斎志異』「黄英」の影響が色濃く見られる。影響が色濃く出ていると考えられる箇所を挙げる。一つ目は、登場人物の名前の類似についてである。『聊斎志異』では、菊を育て清貧を好む男を馬子才としているが、太宰治の『清貧譚』では、馬山才之介となっている。どちらも名前に‘才‘の字が入っている事が分かる。また菊の精である姉を、『聊斎志異』では黄英という名前で、『清貧譚』でも同様の字である黄英となっている。同じく菊の精である英黄の弟は『聊斎志異』では陶という名前で、『清貧譚』では陶本三郎となっている。どちらにも‘陶‘の字が入っている。類似の内容の作品の登場人物の名前が似ているというのは偶然とは考えられない。後世の者が過去の作品を参考に創作をしたと考えるのが自然である。
捕捉だが、『聊斎志異』に出てくる菊の精・陶は陶淵明をイメージしてつくられた登場人物ではないだろうか。陶淵明とは江州潯陽(江西九江市)の人(365~427)で字は元亮である。陶淵明は酒好きな詩人として有名な一方で菊をすごく愛した。『聊斎志異』に登場する陶は菊の精であり、酒を呑み過ぎて馬子才の過失で亡くなってしまう。...