日本国憲法の改正と憲法第9条を巡る歴史的変遷

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    資料紹介

     第二次安倍内閣成立後に盛り上がった改憲運動についてのレポートです。なぜ憲法を変えるのか、変えないのかを述べた後、牙城である9条の取り扱いについて、即時改憲をオプションの一つとして所有することの意義について論じました。

    参考文献リスト
    ・深瀬忠一[1987]『戦争放棄と平和的生存権』岩波書店。
    ・憲法調査会[1964]『憲法調査会報告書』大蔵省印刷局。
    ・渡辺治[2002]『憲法「改正」の争点』旬報社。
    ・竹前栄治, 岡部史信, 藤田尚則[2001]『日本国憲法・検証1945-2000資料と論点 第7巻 護憲・改憲試論』小学館。
    ・武田昌之[1993]「近代西欧国際組織構想外観―日本国憲法第9条の歴史的位置づけのために―」『北海道東海大学紀要 人文社会学系』Vol.6、pp.25-38。
    ・愛敬浩二[2002]「9・11事件と米軍支援法――〈9・11〉以後の憲法状況を考える」全国憲法研究会『憲法と有事法制』。
    ・星野光一[2006]「憲法第9条改正問題」『創価大学大学院紀要』Vol.28, pp.97-121。
    ・田中伸尚[2005]『憲法九条の戦後史』岩波新書。

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    資料の原本内容

    日本国憲法の改正と憲法第9条を巡る歴史的変遷

    ―9条は守るだけでよいのだろうか―
    1. はじめに
     第二次安倍晋三内閣の成立後、憲法改正の動きが大きく報道されている。しかしながら、憲法改正を巡り、日本国憲法成立から現在に至るまで、決着を見ぬまま論争が繰り返されてきた。本稿では、憲法第9条に着目して、憲法改正の是非を論じていきたい。

     要するに、なぜ、憲法を変える必要があるのか。なぜ、憲法を変えてはいけないのか。象徴あるいは牙城として扱われることの多い、憲法第9条を軸に、議論の整理を試みたい。さらに、憲法第9条を如何に扱うべきか、筆者なりの提言を示したい。
    2. 憲法改正の歴史的変遷と第9条を巡る対立の過程
     星野[2006]によれば、改憲運動を、、以下の通り5段階で歴史的に区分している。この区分に則れば、2013年現在は、第6次改憲運動と呼べるだろう。
    (1)第1次改憲運動(1950年代)

    (2)第2次改憲運動(1960から1970年代)

    (3)第3次改憲運動(1980年代)

    (4)第4次改憲運動(1990年代)

    (5)第5次改憲運動(2000年代)
     2.1第1次改憲運動(1950年代)
     この運動は、東西対立の激化と、1950年の朝鮮戦争の勃発を端緒としている。日本の再軍備と米軍駐留という現実を前に、第9条の改正を実現しようとした。米国政府による圧力のもと、マッカーサーは改憲に踏み切ろうとした。ところが、1951年1月29日、米国のダレス特使に、憲法改正に伴う再軍備を陽気有されたにもかかわらず、当時の吉田茂首相は、拒否してみせた。なぜならば、①経済的負担、②軍国主義復活の恐れ、③近隣諸国からの懸念、④憲法上の困難、以上4つの問題があったからである[深瀬,1987, pp.293-294]。

     かくして、再軍備も憲法改正もしないが、米軍の駐留と日本の防衛力強化という妥協に至り、現在まで続く矛盾がうまれることになった。
    2.2 第2次改憲運動(1960から1970年代)

     

    この運動は、1964年7月、憲法調査会の131回総会における最終勧告が原因になっている。以下については、見解が一致した[憲法調査会, 1964, pp.429-28]。①憲法の平和主義の利用そのものは維持すべきである。②わが国の防衛はその理想の実現を目指しながら、自らの防衛にそなえるとともに、国際連合その他集団安全保障制度に参加することにより自国の安全とともに世界平和に貢献すべきである。

     見解が不一致となった論点としては、以下の通り[深瀬, 1964, p.299]。①第9条、特に第2項による戦力不保持をどうするか。②自衛権および独立国家の理念として、どこまでを防衛の範囲とすべきか。③9条を改正するべきか。

     特に、③については、本稿の中核となる議論であろう。推進派は、文面と現実が解離していており、弊害を防ぐため改正すべき、と主張していた。対する擁護派は、現実として防衛体制が整備されている以上、絶対的な弊害は生じていない、と反論した。
     2.3. 第3次改憲運動(1980年代)
     中曽根内閣の誕生とともに、「戦後政治の総決算」が目指された。1983年1月22日の党大会では、はっきりと「自主憲法の制定を党是とする」と明記することになった[渡邊, 2002, p.445] 。しかしながら、「防衛費のGDP1%制限の撤廃」は実現したものの、それ以外の動きはうまくいかなかった。結局、選挙で大敗したことで、運動は下火になっていく。
    2.4. 第4次改憲運動(1990年代)
    1989年のベルリン崩壊、冷戦構造の終焉と激動の時代となった1990年代は、湾岸戦争を機に、憲法9条の扱いで、新たな主張が展開された。その主張とは、「国際貢献」である[竹前ほか, 2001, p.276]。

    湾岸戦争時、米国政府は、海部俊樹首相に、米国を主体と意思他多国籍軍への後方支援活動を求めた。これを受けて、日本政府は、議会へ自衛隊の派遣を要請したが、世論の強い反対を受け、廃案となる。代替として、総額130億ドルという巨額の資金提供を行うことになった。ところが、「世界のために汗も血も流さない日本人」として、国際的な非難をうけてしまう。これを反省として、「国際貢献」が国内でも論議を巻き起こした[武田, 1993, p.26]。

     その後、カンボジア紛争や旧ユーゴスラビア民族紛争といった世界各地の紛争において、日本は国際貢献を標榜することになる。国内世論も、前述の反省からか、国内世論も賛成に傾き、1992年6月19日「国際連合平和維持活動に対する協力に関する法律(PKO協力法)」を皮きりに、米国のクリントン大統領とは橋本龍太郎首相との間で、日米安保体制の拡大が確認された。前述の結果、1997年9月23日に「新ガイドライン」が決定されることになる[竹前ほか, 2001, pp.314-316]。これまでの焦点であった、「安全保障」以外に、「国際貢献」という新たな争点がうまれ、改憲は、新しい局面に映ったといえるだろう。
     2.5. 第5次改憲運動(2000年代)
     2001年9月11日に起きた、米国同時多発テロ事件を切っ掛けとした動きである。米国において、複数の旅客機が同時に占拠され、なおかつ、機体そのものをテロの道具にした特攻は、世界を震撼させるに十分だった。

     テロとの戦いという新たな安全保障問題に絡んだ有事法制制定の動きが加速することになる。この動きを受けて、2001年11月16日、安全保障会議決定において、アフガニスタンにほける米軍主体の多国籍軍の活動に対する支援活動を盛り込んだ法案が審議された。すなわち、自衛隊が後方支援活動を出来るように後述の法律を定めた。この法律が、時限立法・テロ特措法である[愛敬, 2002, p.94]。安全保障と国際貢献が混在したテロとの戦いは、憲法改正における憲法第9条の立場を、さらに複雑化させることになったといえるだろう。
    3. 憲法9条の是非を通じた第6次改憲運動の検討
     なぜ、「いま」になって、憲法改正の動きが起こるのか。その一因としては、憲法第9条が関係していると、筆者は考える。なぜならば、安全保障、国際貢献、テロとの戦いと言った段階を経たことで、現在の憲法第9条と日本の現状とは、解離がますます進んできたからである。
     3.1. 第1次憲法改正運動当時と現在の比較
     前章で述べた1951年に吉田茂首相が主張した4つの問題点の観点から考えてみよう。①経済的負担、②軍国主義復活の恐れ、③近隣諸国からの懸念、④憲法上の困難、以上4つの問題である。①②④は国内問題であり、③は国外問題に大別できよう。

     ①は、既に解決されている。②は、議論が分かれるだろうが、筆者は解決済みだと考える。戦争を経験、あるいは、戦後の反戦活動に身を投じた世代は、軍国主義の復活を警戒していると思われる。だがしかし、その懸念は、筆者のような戦争とは無縁の世代が、軍国主義に染まると主張することと同義である。若者世代の一人として、筆者は、否といいたい。われわれは、しっかりとした教育を受け、平和と繁栄を享受している。貧困と冷戦という、軍事力を増大させかねない国内外の問題が存在していた当時とは、状況が違うと断言したい。

     ③は、微妙である。周辺国を刺激するだろう日本の脅威こと、日本が警戒しなくてはならならない周辺国の脅威という、相反する2つの脅威を考慮しなければならないからである。中国の軍事力強化や北朝鮮問題を鑑みれば、周辺国の脅威度は増しているといえるだろう。しかしながら、周辺国に応じて軍備を強化すれば、たちまち近隣諸国から非難を浴びせられるだろう。そのうえさらに、日本の脅威を理由に、軍備の増強を加速させる可能性も高いかもしれない。国際関係を考慮した軍事的パワーバランスを見極めなければ、ならない。

     最後に、④である。いま、安倍首相が目指している憲法改正の狙いが、④ではないだろうか。筆者は、明言はされていないものの憲法9条の改正を目論んでいる可能性が高いと考える。
     3.2. 第6次改憲運動と憲法第9条のつながり



     前述した4つの問題のうち、筆者は①経済的負担と②軍国主義の警戒、は解決済みと考える。注意してほしいのは、軍国主義への懸念という②の内容は、国内世論を意識した主張であるということだ。つまり、近隣諸国が軍国主義への復活を批判する場合は、③近隣諸国の警戒、に含まれることを留意してほしい。今回の第6次改憲運動で、安倍首相は、憲法第96条の改正を目指している。仮に実現すれば、首相の主張どおり憲法改正のハードルが下がることになる。必然的に、④が解決されるといえよう。

     今までは、主に安保問題、国際貢献、テロとの戦いといった国際情勢の変化を受けて改憲運動は展開してきた。今回の運動も、世界的な経済不安、台頭する中国、日本の相対的プレゼンス低下、という主の3つ国際情勢の変化に起因している、と筆者は推測する。

     しかしながら、筆者は、憲法第9条が、直ちに変更されることはないだろうと予測している。なぜならば、③が一番の曲者だからである。国外の反応という制御が難しく、ほぼ予測不可能な難題は、憲法第9条を容易に変更することを許さないだろう。
     3.3. 憲法第9条は守られるべきか
     では、憲法改正は、無意味なのだろうか。筆者は、非常に重要な意味があると主張したい。というのも、①経済的負担、②軍国主義への弊害、④憲法改正の難易度、の3つを解決することで、扱いの難しい③近隣諸国の...

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