漫画に見られるオノマトペ -オノマトペの創作と、その多様性-
Ⅰ はじめに
オノマトペは、日本語の表現を非常に豊かにしてくれている。動詞自体は非常に単純なものであっても、オノマトペに修飾されることによってその文章の表現はより詳細なものになり、具体性が増す。文学作品においても多彩な表現に貢献しているオノマトペであるが、私は今回、漫画においてオノマトペがどういった変化を遂げてきたか、またそれが私たちの生活とどのように関連しているか、に注目することにした。
Ⅱ オノマトペの性質
言語は、一般的にソシュールの言ったように、その音と意味とが非必然的な関係にある。”yama”という音が「山」の持っている意味と何らかの関係性を持っているかというとそうではない。しかし、オノマトペの場合は、必然的と言えないまでも音と意味との間にある程度の関係性が見出される。特に擬音語において、この音と意味との結びつきは顕著である。外界の音にできるだけ似せた表現にしようとする意思から、普通他の単語では用いられないような音を用いることもある。逆にその点において、新たに出てきた音の組み合わせであっても万人に理解されやすいという性質がある。
Ⅲ 漫画においてのオノマトペ
漫画においてのオノマトペは、「新作が作られやすい」という性質が顕著に現れている。文学作品とは違い、視覚情報があるので、全く新しいオノマトペを創作したとしても意味理解に関してほとんど障害なく受け入れられるのが主な原因だろう。しかし、初期の漫画からオノマトペの表出が顕著だったわけではない。
ストーリー漫画の父と呼ばれる手塚治虫の作品に限ってみても、初期の作品ほどオノマトペの記述が少ないし、書かれているオノマトペも奇抜なものではないことがわかる。そこから後期になるにつれて段々とオノマトペの量も増え、表現が豊かに、より実際の音に近いようなオノマトペが創作されるようになっていくのである。実例を挙げるため、実際に漫画の中で使われたオノマトペを抽出してみることにした。
①『ロストワールド』手塚治虫 (1948年)
バァン・・・発砲音。
ハックション・・・くしゃみ。
ドブーン・・・川に人が落ちた音。
ゴウゴウ・・・川の流れる音。
ドドドド・・・滝の落ちる音。
ガラガラ・・・石が落ちる音。
ガチャリ、ギィー・・・扉の鍵がはずれ、開く音。
ピシリ・・・鞭で叩く音。
ドタンドタン、グワン、ギュー・・・乱闘騒ぎ。
ドッカーン・・・大爆発。
ゴーッ・・・ロケットの落ちる音。
その他、ウワン、キャンキャン、ガァーッなど、動物や恐竜の鳴き声の擬声語が十数種。
②『バンパイヤ 第一巻』手塚治虫(1966年)
オーイオイオイ、ウアーン・・・泣き声
ゴウゴウ・・・火が燃える音
グーグーギー・・・いびき。
キョトン・・・さっぱりわからないといった表情。
ドタン、ズデン、ドンドン・・・階段を転がり落ちる音。
ポタリ、ポタリ・・・水が滴る音。
ドドーン、ザザザザ・・・波が打ち寄せる音。
ガタガタブルブルガタガタ・・・恐ろしさで体がふるえる様子。
カツーンカツーン・・・足音。
ブロォーッ・・・車のエンジン音。
キョロキョロ・・・見慣れない場所に戸惑っている様子。
ポーッ・・・可愛い女の子の写真に赤面する様子。
イライラ・・・待ちくたびれた様子。
シーン・・・何の音もしない様子。
ガブッ・・・噛み付いた様子。
グニャリ・・・骨が無い様子。
ヘタヘタ・・・力なく崩れる様子。
ギクリ・・・予想外の客に驚いた様子。
その他、動物の鳴き声の擬声語が数十種。
上記の二つの作品
漫画に見られるオノマトペ -オノマトペの創作と、その多様性-
Ⅰ はじめに
オノマトペは、日本語の表現を非常に豊かにしてくれている。動詞自体は非常に単純なものであっても、オノマトペに修飾されることによってその文章の表現はより詳細なものになり、具体性が増す。文学作品においても多彩な表現に貢献しているオノマトペであるが、私は今回、漫画においてオノマトペがどういった変化を遂げてきたか、またそれが私たちの生活とどのように関連しているか、に注目することにした。
Ⅱ オノマトペの性質
言語は、一般的にソシュールの言ったように、その音と意味とが非必然的な関係にある。”yama”という音が「山」の持っている意味と何らかの関係性を持っているかというとそうではない。しかし、オノマトペの場合は、必然的と言えないまでも音と意味との間にある程度の関係性が見出される。特に擬音語において、この音と意味との結びつきは顕著である。外界の音にできるだけ似せた表現にしようとする意思から、普通他の単語では用いられないような音を用いることもある。逆にその点において、新たに出てきた音の組み合わせであっても万人に理解されやすいとい...