(1)参入阻止行動とは
既存の1企業(ここではA社とする)が支配している産業に、ある会社(ここではB社とする)が参入するか否かの意思決定を行うとき、B社はA社がどのくらいの利潤を稼いでいるかを計算すると同時に、参入した後に自社がどのくらいの利潤を得る事が出来るかという算段を立てておく必要がある。このとき、仮にA社が新規参入する企業に対して価格競争を仕掛けてくると考えられるならば、B社は自分が参入すれば、この産業における価格も利潤も一気に低下してしまうのではないかと考え、参入をためらうこととなる。
ゆえに、既存企業A社は、現在自社がその産業を独占して高い利潤を得ているとしても、他社が新規参入を行ったらその高い利潤が消滅してしまうであろう事を潜在的な新規参入企業に対して認識させるような行動や戦略を取る事が必要となる。このように、独占企業が潜在的新規参入企業による新規参入を阻止するために行う市場行動を、参入阻止行動という。
代表的な参入阻止行動には、①略奪的価格付け(predatory pricing)、②過剰生産能力(excess capacity)、③制限価格付け(limit pricing)の3つがある。以下では、これら3つについて事例を挙げながら説明する。
(2)略奪的価格付け(predatory pricing)
既存企業が、新規参入企業の生産費用を下回る、極めて低い水準まで価格を引き下げる事によって、現在の新規参入企業を市場から排除すると同時に、潜在的な新規参入企業を牽制する戦略を取ることがある。このような戦略を略奪的価格付けと呼ぶ。この戦略においては、既存企業は大幅な価格の引き下げを行うわけであるから、当然大きな損失を蒙ることになる。しかし、新規参入企業を市場から退出させることが出来れば、価格を再び独占価格に設定して、将来的に損失を埋め合わせる事が出来るはずである。
このような略奪的価格付けは一般的に違法とされており、略奪的価格付けによって市場からの退出を余儀なくされた側の企業が独占禁止法違反ではないかと主張し、提訴するような場面もしばしばみられる。
最近の事例としては、パソコン用MPUの市場において圧倒的なシェアを誇るインテルが、リベートによる略奪的価格付けを行ったとしてライバル企業のAMDから独占禁止法違反で提訴されたことが挙げられよう。AMDがデラウェア州の連邦地裁に提出した訴状によれば、インテルはデル・東芝・ソニー・ゲートウェイ・富士通などのパソコンメーカーに対し、多額のリベートを提供することによって実質的にMPU価格を大幅に引き下げ、AMDの新規参入を違法に妨害したとされる。
(3)過剰生産能力(excess capacity)
前述のように、参入阻止行動とは新規参入が起これば価格が引き下げられることを潜在的な新規参入企業に信じさせる行動である。その1つの手段が、現在必要となるはずの水準を上回る生産能力(過剰生産能力)を保有し、わずかな追加的労力でいつでも産出量を大幅に増やす事が出来ることを潜在的な新規参入企業に対して示すことである。既存企業は、過剰生産能力を保有する事によって激しい価格競争に臨む意思と能力を潜在的新規参入企業に対して誇示することが出来る。
この参入阻止行動は装置産業においてよく用いられる。例えば二酸化チタンの生産で独占的地位を築いているデュポンが、大規模なプラントの建設計画を発表することによって過剰生産能力の保有を誇示し、潜在的な新規参入企業に対して牽制したことが良く知られている
(1)参入阻止行動とは
既存の1企業(ここではA社とする)が支配している産業に、ある会社(ここではB社とする)が参入するか否かの意思決定を行うとき、B社はA社がどのくらいの利潤を稼いでいるかを計算すると同時に、参入した後に自社がどのくらいの利潤を得る事が出来るかという算段を立てておく必要がある。このとき、仮にA社が新規参入する企業に対して価格競争を仕掛けてくると考えられるならば、B社は自分が参入すれば、この産業における価格も利潤も一気に低下してしまうのではないかと考え、参入をためらうこととなる。
ゆえに、既存企業A社は、現在自社がその産業を独占して高い利潤を得ているとしても、他社が新規参入を行ったらその高い利潤が消滅してしまうであろう事を潜在的な新規参入企業に対して認識させるような行動や戦略を取る事が必要となる。このように、独占企業が潜在的新規参入企業による新規参入を阻止するために行う市場行動を、参入阻止行動という。
代表的な参入阻止行動には、①略奪的価格付け(predatory pricing)、②過剰生産能力(excess capacity)、③制限価格付け(limit...