第4回 イラク 田中宇著 光文社新書
大使館訪問
2003年初旬、筆者は日本山妙法事の住職である堀越上人とジャーナリストの松崎三千蔵氏と三人でイラク大使館を訪れた。堀越上人はチグリス川での灯篭流しという、戦争回避に向けたPRになりそうな具体的な計画があったため、ビザはすぐに発行される事となった。
・バグダットへの道
ヨルダンはアンマンの中心街にある「アブダリ・バスターミナル」の前のホテルに泊まっていた一行はタクシーでバグダットへと向かった。イラク国境に向かう荒野の中の道には、石油を積んだタンクローリーがひっきりなしに往来していた。ヨルダンは対立する周辺諸国とのバランスをとる事が、国家の存在理由である。フセイン政権が石油を無償供与し続ける事は「保険」のようなものである。また、イラクは経済制裁下でもヨルダンからは物資を輸入出来るので、その意味でも十分に意味のある戦略でもあった。
3時間ほど走ると、イラク国境に着いた。そこにはイラクの経済的余力を窺わせる日産製の新車がびっしり積まれたトラックも並んでいた。
入国審査を終え、イラク側に入ると、バグダット市内までの道は綺麗に舗装されており、中央分離帯や街灯、道路標識も完備されていた。道路を頻繁に修繕出来るだけの国家財政を思わせた。
日暮れ後にバグダット市内に入ると交通量はどんどん増え、渋滞の中を走るようになった。市内には立体交差も多く、日本の首都高速のような高架の道路もあった。大通り両側の商店街にはこうこうと明かりがついている。大通り沿いには各種製品の看板広告もたくさん並んでいる。車の殆どはボロボロだったが、交通量は非常に多く、十分に都会の水準だった。国内で石油が豊富に採掘されるイラクでは、ガソリンが1リットル15ディナール(約三円)と異常に安い。おまけに車検制度も事実上ないようなので、通りがボロボロの車で溢れるのは当然だった。
日本や欧米にいて、イラクに関する報道に接していると12年の経済制裁を受けたイラクは完全に疲弊しているように感じられたが、バグダットは非常に活気があり、意外なほど豊かだった。町は雑然とした感があり、エジプトのカイロに負けない豊かさを持っていた。
イラクには豊富な埋蔵量の石油がある。経済制裁で採掘量は減ったままだが、それでも石油を売ることで、かなりの豊かさを回復している。これを自由に売ることが出来たら、イラクは中東最大の大国になる要素を持っていることが感じられた。アメリカはイラクの潜在的な力に目をつけ、現体制の転覆を狙っているのだと思った。
・表敬訪問
バグダット入国2日目から一行はイラク情報相のガイドと行動を供にする事になった。一行はまず市内中心部にある友好平和連帯協会の本部へ向かった。代表のハシミ会長は「アメリカが中東の石油を直接支配する事で、日本や西洋がアメリカに従属せざるを得ない状況を作ろうとしている。従って日本はアメリカのイラク侵攻には反対したほうが良い」といった内容を話した。
翌日は市内の小学校に向かった一行は、そこで作られた愛国パフォーマンスを目にした。先生に続いた子供達がスローガンを掲げながら手を叩いたり、拳を振り上げたりしていた。
イラクだけでなく、北朝鮮やイラン、シリアなどアメリカから狙われている国の多くが、プロパガンダ政策と思想統制せざるを得ない状況だが、9・11以降アメリカでは政府が「テロの恐怖」を利用してイラクなどよりはるかに巧妙に国家のプロパガンダを国民に信じ込ませている。
・二つの民族主義
一行が訪問した小学校の玄関の左右にはエルサレムの「ア
第4回 イラク 田中宇著 光文社新書
大使館訪問
2003年初旬、筆者は日本山妙法事の住職である堀越上人とジャーナリストの松崎三千蔵氏と三人でイラク大使館を訪れた。堀越上人はチグリス川での灯篭流しという、戦争回避に向けたPRになりそうな具体的な計画があったため、ビザはすぐに発行される事となった。
・バグダットへの道
ヨルダンはアンマンの中心街にある「アブダリ・バスターミナル」の前のホテルに泊まっていた一行はタクシーでバグダットへと向かった。イラク国境に向かう荒野の中の道には、石油を積んだタンクローリーがひっきりなしに往来していた。ヨルダンは対立する周辺諸国とのバランスをとる事が、国家の存在理由である。フセイン政権が石油を無償供与し続ける事は「保険」のようなものである。また、イラクは経済制裁下でもヨルダンからは物資を輸入出来るので、その意味でも十分に意味のある戦略でもあった。
3時間ほど走ると、イラク国境に着いた。そこにはイラクの経済的余力を窺わせる日産製の新車がびっしり積まれたトラックも並んでいた。
入国審査を終え、イラク側に入ると、バグダット市内までの道は綺麗に舗装されており、中央...