刑法事例演習教材 第2版(新版)の解答です。事例問題形式での刑法演習書として本書の問題は完成度が高く、基本論点を網羅するとともに「考えさせられる」良問が揃っているため、現時点で,刑法科目最高の問題集であります。
充実した解答のついていない本書において、本解答は貴重なものであると思います。特に,答案を書くにあたり,受験生が苦手とする「事実の評価部分」が充実していますので、司法試験対策には非常に有用な内容に仕上がっております。
そして、本解答は司法試験合格者に添削をしてもらった上で作成しているため、信頼できる内容になっていると考えます。 また、発展的な問題については、参考文献や参考資料を引用した上で作成もしておりますので、学習の便宜上、有効な内容となっております。
第37問 某球団ファンの暴走 その2
第1 乙の罪責
1 住居侵入罪
乙は、A宅に野球道具等を盗む目的で侵入しており、Bもその目的を知っていれば家に入れることはなかったと言える。したがって、住居侵入罪の共同正犯が成立する(130条前段、60条)
2 Aに対する詐欺罪の成否
(1)乙は、自らがAから依頼を受けたC社社員であると嘘をついて、BにAが使用するバットとグローブ(以下、「本件バット等」とする。)を持ってこさせ、受領している。そこで、かかる行為について、詐欺罪が成立しないか。
詐欺の成立要件は、①処分に向けた欺罔行為、②①による錯誤、③錯誤に基づく交付行為④行為者の詐取であり、これらが因果関係で包摂されていることを要する。
本件は、所有者でないBに本件バット等を交付させており、かかる交付が③にいう交付行為として評価できるかが特に問題となる。
(2) まず、Bが本件バット等の占有を有していれば、Bが被害者であると同時に被欺罔者といえるため、被害者の意思に基づいた交付として③を認めることができる。
本件では、BはA宅に滞在しておりAの部屋の掃除等をして...