Xの行為の構成要件該当性について検討する。
XはYのMDプレーヤーや携帯電話をひったくり、踏みつけて破壊している。
XはYの財物を破壊する故意を持って、他人の財物を損害しているので、刑法261条の器物損壊罪の構成要件に該当する。
Yの行為の構成要件該当性について検討する。
Yはペースメーカーを着用しているXの隣で、ペースメーカーに誤作動等の悪影響を与える可能性のある電子機器を使用している。
さらに、YはXから「電子機器のペースメーカーに対する悪影響」「ペースメーカー着用者である事」を知らされたにもかかわらず、使用を続けている。
これはYの「Xに危険な状態かもしれないが、それでも構わない」という「未必の故意」に基づいた行為であると考えられる。
また、ペースメーカーの誤作動は着用者の身体・生命の危険を脅かすものである。
学説によると、「人の生理的機能に障害を与えること、あるいは、人の健康状態を不良に変更すること」を「傷害罪」とする説が有力であるため、実際に侵害が発生した場合、Yは傷害罪の構成要件に該当する可能性がある。
二、Xの正当防衛の成否について
上述の四つの論点について、順に述べていく。
(一)「不正の侵害」の有無について
Yの行為が不正なものであったのかを検討する。なお、故意・過失による区別はないとする学説が有力であるため、その説を採用する。
一、で述べたように、Yの行為は「Xの身体・生命」という法益に対する侵害である。
よって、Xに対する「不正の侵害」は存在したといえる。
(二)急迫性の有無について
問題文の状況を整理すると、Xは、混雑して移動の困難である電車内で、Yと隣り合わせになっている。
この状況で、Xが国家機関による保護、あるいは、駅員・車掌の保護を待つ余裕があったのかが問題になる。
【問題】
心臓に疾患を持ち、ペースメーカーを着用して生活しているX(女性、50歳)は、電車に乗った際に、車内アナウンスでの注意にも従わずにMDプレーヤーをヘッドフォンで聞きながら携帯メールを打っているY(男性、20歳)と隣り合わせになったが、車内が混雑しており、その場から移動できない状況になった。そこで、XはYにペースメーカーへの悪影響を説明して、MDプレーヤーや携帯電話の使用を差し控えてくれるように頼んだが、Yはこれを無視してなおも使用を続けたため、Xはそれらの機器をひったくり、さらにその場で踏みつけて破壊した。Xの罪責を論じなさい。
【解答】
問題の論点を整理する。
一、XとYの行為の構成要件該当性
二、Xの正当防衛の成否
(一)「不正の侵害」の有無
(二)急迫性の有無
(三)防衛するための行為か否か
(四)やむを得ずにした行為か否か
以上の論点について、述べていく。
一、XとYの行為の構成要件該当性について
Xの行為の構成要件該当性について検討する。
XはYのMDプレーヤーや携帯電話をひったくり、踏みつけて破壊している。
XはYの財物を破壊する故意を持って、他人の財物を損...